【由井芳樹・京大病院医師に独占インタビュー】

武田に有利なグラフが存在
原因を明らかにして説明を

――2012年にディオバンに関する東京慈恵医科大学の論文に対し、英医学雑誌「ランセット」に疑義の論文を投稿し、その論文が不正追及のきっかけとなりました。CASE-Jも疑ったきっかけは。

 投書を受けたある大手メディアからの問い合わせです。投書は7項目ほどの問題点を指摘しており、そのなかに脳卒中や心筋梗塞などの病気の累積発症率を示すグラフの曲線がおかしいとの指摘がありました。

 これについて、研究を担当した京都大学の研究部門と武田薬品工業の担当者に来てもらい、説明を受けました。当初は納得し、問い合わせてきたメディアに対しても、(問題はなさそうと)報告しました。しかし、その後、気になったので、2008年に「ハイパーテンション」に掲載された元の論文を読んでみたところ、理論的に変だなと思った。調べていくと、異なるグラフが3つも出てきたんです。

――複数のグラフが存在するというは、科学の世界ではあり得ないと聞きます。

 同じデータなのに、異なったグラフが複数存在することはありえない。しかも、(大規模臨床研究のスポンサーである)武田薬品のクスリが比較したクスリに比べて有利なように見えるグラフが医師向けの宣伝に使われていた。原因を明らかにして、説明する必要があると思います。

――解析方法についても、問題があると指摘しています。

 一般の方には分かりにくいかと思いますが、統計学的手法として疑問があります。当初は対照薬であるアムロジピンの効き目が優勢であり、クスリの効き目を示す曲線はほぼ一直線で進んでいます。ところが、ブロプレスは途中で曲がり始めている。宣伝用のグラフでは曲線は交差し、対照薬を追い抜いてしまっています。

――曲線が交差するグラフの問題について、多くの専門医が賛同しています。

 抗がん剤のように死亡率が高く、患者にさまざまな治療が行われている病気ならまだしも、降圧剤のような治療の場合、途中でクロスすることは考えにくいです。

――グラフをみると、途中で武田のブロプレスが急に効き始めたような印象を受けます。

 常識的には、併用薬を追加するなど、線(カプランマイヤー曲線)を不自然に曲げる何らかの力が加わったと考えます。

――ノバルティスや武田ではない他の製薬大手がスポンサーとなった有名な大規模臨床研究についても、専門医の間ではデータの一部が疑問視されています。

 その大規模臨床研究を疑問視する声があるというのは聞いたことがあります。専門外の疾患領域なのでよく分かりませんが。

 これまでの経験上、医療現場の第一線で働いている専門医が研究発表を聞いたとき、直感的に違和感を覚えるものは、問題があることが多い。「臨床と合わない」という言い方をしますが、これは理屈ではなく、多くの患者を診ている現場の医師が肌身で感じるものなのでしょう。

(取材・文・撮影/週刊ダイヤモンド編集部・山本猛嗣)

【ダイヤモンド・オンライン編集部からお知らせ】
週刊ダイヤモンド編集部による由井氏らへの追加取材を反映させるため、第1報の一部を修正しています。