生活保護に関するニュースは、官公庁・自治体が公開する情報に基づいている。メディア各社の独自取材が行われる場合にも、多くは、公開された情報を起点として取材が展開されている。今回は、3月中旬になされた複数の報道を通して、生活保護に関するニュースの背景を探ってみよう。ある時期に特定テーマでメディア報道が集中する背景には、何があるのだろうか?
生活保護当事者をめぐる
ニュースの表層から見えるものは?
今回は、生活保護に関する報道を中心に、生活保護に関する報道の背景を考えてみたい。
3月20日、生活保護当事者の不適切な医療機関利用を問題とする報道をテレビ朝日が行った。
「生活保護受給者が…4328人が向精神薬を重複処方(03/20 05:46)
生活保護受給者のうち4300人以上が、向精神薬を複数の医療機関から重複して受け取っていたことが会計検査院の調べで分かりました。(略)
会計検査院が全国24都道府県で実態調査を行った結果、2011年11月の1カ月間で4328人が複数の医療機関から向精神薬の処方を受けていました。なかでも、1カ月で180日分以上の処方を受けた人が63人もいました。生活保護受給者の医療費は全額公費ですが、入手した向精神薬を売買する受給者がいることが指摘されています。また、10回以上入退院を繰り返した受給者も132人いました(後略)」
まず、いかにも生活保護当事者が問題であるかのようなタイトルに、筆者は強い抵抗を覚える。また、「63人も」の「も」にも。この実態調査は、全国24都道府県・511自治体を対象に行われたもので、金額ベースでは生活保護費全体の75%程度をカバーしている大規模調査ではあるけれども、全数調査ではない。もし全数調査であれば、人数はもっと多くなるはずだ。
しかし、もし会計検査院の報告書がそのようなトーンで書かれていたのであれば、取材時間に余裕のない中で、記者が「もしかすると、そうではないかもしれない」という一言を付け加えることは困難だろう。
この報道の背景を知るために、まず、会計検査院報告の内容を見てみよう。
会計検査院は
過量処方問題をどう見ているか?
2014年3月19日、会計検査院は、国会及び内閣への随時報告を行った。会計検査院法第30条は、会計検査院が重要と考える事項・処置を要求した事項については、「随時、国会及び内閣に報告することができる」としている。3月19日には、生活保護の実施状況についての随時報告が行われた。同日、会計検査院は「生活保護の実施状況についての報告書」を公開した。
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