同じ土俵で戦わず、自分の強みで勝負する

 フランス人には負ける気がしないとはいえ、彼らにとってフランス料理は自国の料理で、日本人はよそ者。普通なら、対等に勝負していくうえで、かなり不利なのではないかと考えてしまいます。

「今は、世界中でつくられている料理に枠がありませんよね。どこでどんなことを学んだかによっても変わってくるし、どこの国の料理というより、その人自身の料理というか。たとえば僕は、和の食材はもちろん、アジアも回っていたのでそこの食材も使います。もちろんカテゴリー的にはフランス料理に入りますが、自分で言っているわけでもないし。だから、フランス人だから有利とか、日本人だから不利ということは、まったく感じたことがありませんね」

 これはフランス料理に限らず、ビジネスでも同じです。現在は、日本だから日本のビジネスのやり方でなくちゃいけない、フランスだからフランスのやり方でなくちゃいけない、という枠はありません。たとえば現にアマゾンは、世界中で同じビジネスをしています。もちろん、少しそれぞれの国向けにカスタマイズはしますが、国籍は関係ない時代になっているということでしょう。

「伝統的なフランス料理の牛頬の煮込みをつくるとか、もしそういう大会があれば、フランス人に比べて不利になるとは思います。でも、いい食材を使って、クラシックな技法で……という、いわゆるフランスの三つ星の料理と、僕のやっている料理では、もうまったくカテゴリーが違う。そもそも同じ土俵に立って戦おうとも思わないし、僕は僕で評価をしてもらえて、それで毎日お客さんが入ればいいと考えています」

 自分の強みで勝負する。逆にいえば、欧米人のマネをしたり、フランス人とまったく同じ料理をつくっても仕方がないということ。そしてその強みのひとつが、日本人であることでした。

「たとえばフォアグラのテリーヌをつくるのに味噌でマリネをしたり、佐賀県出身なので、唐津焼や有田焼の皿に料理を盛ったり。自分の特徴は何か、っていうことを強く考えるようになったのは、やっぱりバックパッカーをしたときからですね。いざバッグを背負って出かけてみれば行けないところはないし、飛行機に乗ってしまえば、簡単に世界一周だってできる。せっかく料理の道を目指したんだから、できれば世界で活躍できるぐらいになりたいって」

 世界を見て自分の強みを知り、さらに高い目標に気づいてアクションを起こす。やはり、あの1年間はたんなる放浪ではなかったのです(前半終了)。

~『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』はじめに より~

次回後編は4月2日更新予定です。

◆『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』バックナンバー

第1回 なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか


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定価1400円(+税)

本田直之『なぜ、日本人シェフは世界で勝負できたのか』

Michelin France 2014年で、日本人シェフの星付きレストランは合計20軒に!
日本人は欧米にあわせるのではなく、元来もっている日本人のよさ、強みをいかして海外に羽ばたく時代がきた!

■どうすれば海外で活躍できるのか?
■いま注目されている日本人の強みはなにか?
■ビジネスパーソンはどのように応用すればいいのか?
世界で活躍するシェフ15人のインタビューと世界で活躍するために必要な34のスキルをまとめました。

フランス
◎パッサージュ53 佐藤伸一シェフ
日本人シェフとして初めて、フランスで二ツ星を獲得
「焦っても、ただやみくもになにかをしない」

◎Keisuke Matsushima 松嶋啓介シェフ
日本人最年少でミシュランフランスで一ツ星を獲得
「競争なんかしないほうがいい」

◎レストランソラ 吉武広樹シェフ
ミシュランフランス 一ツ星
「同じ土俵で戦わず、自分の強みで勝負する」

◎レストラン・ケイ 小林圭シェフ
世界的に有名な三ツ星レストラン「プラザアテネ」元スーシェフ
「選択肢が狭いからこそチャンスがある」

◎オ・キャトルズ・フェブリエ 新居剛シェフ
ミシュランフランス 一ツ星/トリップアドバイザー、リヨンで1位
「デメリットをメリットだと考えられるか」

◎ラ・カシェット 伊地知 雅シェフ
ミシュランフランス 一ツ星
「なこかい、とぼかい、なこよかひっとべ」

◎ジョエル・ロブション 須賀洋介シェフ
ロブション氏の懐刀
「発想を転換すれば、大変が大変でなくなる」

◎プティ・ヴェルド 石塚秀哉オーナーソムリエ
日本人オーナーシェフ初のミシュラン1つ星「レストランひらまつ」の元シェフソムリエ
「海外で得たものは、技術ではなく人間としての成長」

◎シャングリ・ラ ホテル パリ ラベイユ 佐藤克則ソムリエ
ミシュランフランス 二ツ星レストラン セカンドソムリエ
「自主的に動かない人間に棚ボタはない」

イタリア
◎オステリア・フランチェスカーナ 徳吉洋二シェフ
ミシュランイタリア三ツ星/「ワールド50レストラン」で世界第3位 スーシェフ
「考えろ、考えろ、考えろ」

◎ダル・ペスカトーレ 林 基就ソムリエ
イタリアでもっとも長く三ツ星を維持しているレストランのプリモソムリエ
「あえて困難な道を選ぶ」

◎マグノリアレストラン 能田耕太郎シェフ
ミシュランイタリアで日本人として2人目の一ツ星
「活躍するために必要なのは『強みとビジョン』」

スペイン
◎Koyshunka 松久秀樹シェフ
日本人として初めてスペインミシュランで一ツ星を獲得
「『アク』を持って生きよう、ナチュラルでいよう」

日本
◎レストラン カンテサンス 岸田周三シェフ
ミシュランガイド東京 フレンチの日本人オーナーシェフ唯一の三ツ星
「まわりがやらないからやらないという発想は間違い」

◎日本料理 龍吟 山本征治シェフ
ミシュラン東京で3年連続三ツ星/「ワールド50レストラン」日本料理で最高位
「もっとあるだろう、もっとあるだろうと思う」

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