年齢は関係ない、マネジメントがあれば新人でも価値を出せる

琴坂 結局、私はマッキンゼーの時代も含めると7年間も海外にいることになりましたけど、安宅さんと一緒のスタディだったときは、全然英語が話せませんでした。「Thank you very much.」って書いたら、「お前、何を言ってるんだ?」って怒られましたよ(笑)。

安宅 英語の教育はきついけど、それ以外であれば、僕とやっている人はだいたい育つと思っています。

琴坂 だけど、何人か消えていなくなる(笑)。

安宅 おおむね育つんです(笑)。僕はマッキンゼーにいた当時は、最も若手の弟子の多い人の1人だったと思うよ、おそらく。意識的に、若い人材を多くチームに入れていました。

 教育の手間がかかり、ベースのばらつきが大きい新人をチームに入れることを、多くの人は嫌がるんです。でも、僕は新人でもバリューを出せる、という持論を証明するためにやっていたんですね。むしろ、新人は白地で好ましいというのが僕の考えです。

琴坂 若い人と働くときに、意識していることはありますか?

安宅 一緒に汗をかくことだと思います。

琴坂 師弟関係とはいえ、チームですよね。安宅さんは、こうあるべきだという芯があり、それをしっかりと伝えるマネジャーでした。他のマネジャーのときには、いつの間にかチームの方針が変わっていて、なんでそうなったのかわからないということがありました。安宅さんは、そういうときは直接説明してくれましたよね。

安宅 ありがとう。丸投げや決め打ちが起こりがちなんだけど、主たる仮説を洗い出すことは、しっかりとチームと一緒にやっていました。仮説に対する作業設計も、実際に手を動かす人に任せてあとは放置といったことはしません。チームで一緒にストーリーラインをつくって、論点を見極める。なぜかというと、分析の実行も「とりあえずやってもらう」ということでは、無数の使えない分析が発生して意味がない、ということが起こりがちだから。

琴坂 よくありますね。

安宅 こういうことはやらないで、これはつくってくれ。少なくともこれにはしっかりケリをつけてくれ、としっかり伝えます。僕とやっている人は、1つひとつの分析作業は重くて大変なのかもしれないけど、全体を見ればたいした量のことはやっていないと思う。

 このイシューに答えが出ないと困る、それ以外のイシューはどうでもいい、と分析のストーリーをすっきりとさせるようにできる限り努力をしています。基本を守って、きちんとやるべきことをやれば、プロジェクトもきちんと回るということを絶えず実践しようとしてきたつもりです。

琴坂 私から見た安宅さんのやり方は、日本刀のようにイシューを切るという印象です。課題全体のここを切るとまず決めて、そこにサクッといく感じがあって。そうではない人もいますよね。とにかく闇雲に殴る。殴りながら、だんだんここを殴れば致命傷になると理解していくやり方です(笑)。

安宅 いわゆる「boil the ocean approach」と言われている方法だよね。太平洋を全部沸騰させるように、そこにある課題を片っ端から潰していく。それは、入っている若い人からすると最悪だよ。でも、そういうプロジェクトもそんなに珍しくもないかな。

琴坂 あるときは、「Let’s boil the ocean.」と言われたこともあります(笑)。チーム全体が、「なんだかこのプロジェクトの課題はよくわからないね」という雰囲気になったところで偉い人がそう言ったので、場がシーンとなりました……。