日本郵政の新社長に、元大蔵事務次官・斎藤次郎氏を起用したことに、さまざまな批判が噴出した。
元官僚の登用が、「脱官僚依存」「天下り全廃」という鳩山由紀夫政権の基本方針と一貫性を欠いているという、「官僚支配」の観点からの批判。郵貯の莫大な資金が国債発行の受け皿になり、更なる財政赤字の悪化につながることや、亀井静香郵政・金融担当相が推進する中小企業への貸し出しに振り向けられるなど財政金融政策への悪影響の懸念。そして、鳩山政権が「郵政の国有化」を目指すのではという疑念などだ。
元官僚であるだけでなく、かつて細川政権時に「国民福祉税構想」を強行しようとして汚名を受けた斎藤氏を日本郵政社長に起用がすることが政治的に批判されるのは、ある意味当然と言えよう。但し、これらの批判は重要な観点を欠いていると私は考える。
「財務省支配」なら、
健全財政を前提とする
斎藤社長の起用が「官僚支配」ならば、斎藤社長の意思決定は出身官庁である財務省の強い影響下にあるはずだ。その財務省(旧大蔵省)は「健全財政」の維持を目指してきた。財務省は、国家予算の編成権を持つことで他省庁や政治家を支配してきたとされる。すべての政策は予算措置を必要とするため、予算配分権を持つ財務省は強力な政治力を持てるということだ。だから、古くは鳩山首相の父・鳩山一郎政権による「主計局分離論」から、橋本龍太郎政権の「経済財政諮問会議」の設置、鳩山(由)政権の「国家戦略局」構想まで、政治家は予算編成権を財務省から奪取しようとしてきたのだ。
ただ、財務省が予算配分を通じて各省庁や政治家を支配するには「健全財政」維持が必要となる。財政赤字が拡大し、赤字国債が大量に発行される状況では、財務省が予算配分権を使っても、他省庁や政治家に対して説得力がないからだ。
ところが、財務省にとって深刻なのが「財政投融資」の存在だった。財政投融資とは、郵便貯金や年金積立金などを原資とし、特殊法人等の公的機関を経由して高速道路や空港などを建設する大型事業や、中小企業の事業資金、国民の住宅建設資金などに出資・融資されてきた。ピーク時には約50兆円近い規模があり「第二の国家予算」と呼ばれた。
財政投融資は、実質的には国会で厳しい審議を受けない。そのため、各省庁や族議員が、政府の財政再建への取り組みによって、一般会計の査定が厳しくなった分の資金を財政投融資から獲得しようと動き、無駄な事業に多額の資金が投じられた。また、さまざまな省庁の役人が特殊法人等に再就職(天下り)し、高額の退職金を受け取っていたが、その原資の多くは財政投融資だった。