マイケル・ポーターが提唱した「価値連鎖」の概念

 価値連鎖(バリュー・チェーン)というと、マイケル・ポーター氏の『競争の戦略』(*1)を思い浮かべる方も多いかと思います。

 たとえば、企業が商品を市場に提供するときは、技術を開発し、商品を企画し、材料を購入し、生産し、それを配送し、営業して販売する。そして同時に、これらの各機能を支援するために、人事、総務、経理、法務といった機能を整備します。

 端的に言えば、価値連鎖とは、企業が商品を作り出すときに生じる付加価値の流れです。この流れを作り出すことによって、企業はその存在価値を示し、その流れが自社独特であるがゆえに、企業は競争力を持つとも言えます。

 ポーター氏が最初にこの概念を書籍化したのは、1980年でした。そこでは、この価値連鎖は単一の企業の内部にある、そのほとんどは特定の国の内部に存在する連鎖である、という暗黙の前提で議論をしているかと思います。

 実際、70年代までは、大半の企業の価値連鎖は1つの国の中に存在しており、また重要な機能のほとんどは自社内で保持することが一般的でした。

 もちろん、合従連衡がなかったわけではありません。しかし、国境を越えた連携に議論を限れば、一部の例外を除き、その連携の程度はそこまで密接なものではなかったと言うことができます。

 無論、下請けや系列と綿密に連携して、非常に完成度が高く、作りこまれた商品を生み出すことはすでに一般的でした。しかし、それが行われていたのは、地理的に限定された狭い範囲の産業集積の内部だったのです。