経済がつながり合う「インターリンクド・エコノミー」の時代へ

 大前研一氏が1990年に出版した『ボーダーレス・ワールド』(*2)は、日本国外でも高い評価を得た作品でした。国際経営の領域でマクロ的な経営環境を語る際、海外では未だに引用されることもある作品です。

 この中で解説されている、インターリンクド・エコノミー(Interinked Economy)という概念には、とても重要な部分だけを抜き出して言えば、企業によって世界各国の経済がつながり合い、その付加価値の生産が連動していくという概念が含まれています。

 大前氏自身も書いているように、この著書は、学術的な検証や統計的な裏づけを伴うものではありません。しかし、先進的な国際経営の事例を紹介しながら、その後に登場するであろう「つながり合う世界」、世界的な価値連鎖の到来を予期させるものでした。

 実際、80年代と90年代にかけては、日本企業の海外生産が本格化した時期にも重なります。日本の急速な経済成長と貿易黒字を背景として、とくにアメリカやヨーロッパからは、日本ではなく、現地で作り、現地で売るように圧力がかかります。さらには、ジリジリと強まる円高圧力にも押し込まれ、海外に進出する企業の海外生産比率は、1985年には10%程度に過ぎなかったものが、2000年には35%近くにまで上昇しました(*3)。

 70年代の後半までは、日本国内で、日本企業だけで結集し、日本国政府の庇護のもとで戦ってきた日本企業は、この流れにより、世界中の生産拠点を持ち、現地の企業とも協業し、世界中の現地の政府の庇護も受けながら事業を展開するようになりました。

 もちろん、この流れは、何も日本企業だけに起きていたことではありません。世界中の国で、同じような国際展開が同時並行的に進みました。そして製造業だけではなく、サービス業においても、さらには農業においても、全世界をつなぎ、それを用いて事業を行うことが一般的となったのです。