常習クレーマーとの攻防
「今日も繁盛してますね」
妙に大きな声がして、菅原は店の出入り口を見た。店長は目配せで、その声の主が須藤であることを伝えた。
菅原は須藤に駆け寄り、一通りの挨拶とお詫びをしたあと、本題に入った。
まずは、店長の話をもとに事実関係の確認だ。ところが、途中で須藤が口をはさんだ。
「まあ、そんなところだよ。店員の態度は悪いし、なかなかセールをやらないし……。だいたい、裾上げも満足にできない。おかげで、楽しみにしていたパーティーに着て行くことができなかった。それなのに、なんの謝罪もない」
「さようでございますか。それは誠に申し訳ございません。改めてお詫びいたします」
「それで謝罪しているつもりか?」
須藤は少し声のトーンを上げた。そして、二の矢を放つ。
「それに、店長は『近々、セールをやりますので、ぜひ来てください』と言っていたのに、いつまで経ってもセールが始まらない。毎週、楽しみにしているんだよ」
菅原は、須藤の話術に舌を巻いた。嫌がらせで来店しているのではないと、暗にほのめかしているからだ。
「セールの開催につきましては、店長の一存で決められるわけではありません。『近々』というのは、今週、来週の話ではないんです。この点はご了承ください」
「それならそうと、店長がはっきり言ってくれればいいんだよ」
「申し訳ございません。店長には私から厳しく言っておきます。セール開催の折には、ご案内状をお送りいたしますので、ご連絡先を教えていただけますか?」
悪質クレーマーは、自宅の住所を知られたくない。菅原は須藤にプレッシャーをかけたつもりだったが、須藤が一枚上手だった。