脅しをどうかわすか?

 菅原は鋭い視線を感じた。しかし、ここでうろたえたら負けだ。おっとりした口調で応じる。

「インターネットですか。困りましたね」
 「それなら、流してもいいんだな」
 「困りましたね。でも、お客様のお考えですから、それに対して私どもがとやかく言える立場ではありませんから……」

 菅原には勝算があった。須藤が金品目的のクレーマーなら、ネットに流してわざわざ事を大きくするような真似はしないと踏んでいたからだ。

 予想通り、須藤の勢いはここで止まった。

「K言葉」で“のれんに腕押し”に持ち込む

「ネットで流すぞ」というセリフは、いまやクレーマーの常套句になっています。かつては、「マスコミに流すぞ」というのが決まり文句でしたが、インターネットの普及によって、その座を明け渡しました。

 誰でも簡単にアクセスできるインターネットは、クレーマーにとって強力な武器です。最近は、ネット空間での口コミによる「風評被害」が広がっています。たとえば、グルメ情報サイトの書き込みは、料理店にとって通信簿のようなものです。

 この事例は、クレーマーのなかでもとくに悪質なタイプですが、もともとは「善良な市民」です。言い換えれば、誰でもタフなクレーマーになれるのです。そこが、ネット社会の恐ろしいところではないでしょうか?

 しかし、対抗策はあります。もっとも効果的なのは、「相手にしない」ことです。つまり、「ネットで流すぞ」という脅し文句に対しては、「困りましたね」などという言葉で受けて、「ギブアップ」を演じるのです。

前回述べた「ギブアップトーク」と同様に、「私ではどうにもならない」ということを伝えて、さっさと土俵から下りてしまえばいいのです。

 それでも、ネットに流されたら、法的手段も視野に入れます。

 このほかに「苦しいです」「怖いです」というフレーズも効果的です。私は、これらを「K言葉」と名付けています。