修羅場を経験した経営者と
渡り合えるコンサルタントを求む!
村井 それから、コンサルタントを雇うことによる大きな副産物として、人材育成があります。仮に同じ3000万円を投じるなら、3ヵ月で10人のコンサルタントを雇うよりも、プロジェクト・リーダーを1人出してもらった方がいい。そして、3ヵ月間、そのリーダーの下に自社の経営企画メンバーを充てて、徹底的に彼らをトレーニングしてくれという方が、同じお金をかけたとしても得られるものはずっと大きいんです。こういう要望には、大手よりも中堅のファームの方が自在に対応してくれます。
並木 規模は小さくても、マッキンゼーやBCGとは異なる役割を引き受けられるわけですね。
村井 確かにマッキンゼーやBCGには品質の高いコンサルタントが揃っていますから、労働力を短期間だけ借りてソロバンとして頼む時には便利です。でも、経営者がどっちに行けばいいか悩んでいる時に伴走者になってくれて、コンサルティングというよりもコーチングのような役割を担う存在として長期的に付き合っていくには、フィーが高すぎてとてもじゃないけど使えない。そういう使い分けは、どこの会社でもやっているはずです。
並木 常に伴走しながら、本当に必要な時にはコンサルティングの質量を増強し、その時期が過ぎたらまた伴走モードに移行する。そうした柔軟性は大事にしていきたいと思います。
村井 日本の雇用体系では、人を簡単には解雇できません。だからこそ、プロジェクトの期間だけ力を貸してくれるコンサルの存在は、労働力の獲得と解消という機動的経営の安全弁として有効だと言えるわけです。
ただ最近では、インターネットを通して個人の能力を切り売りするような勢力が出てきました。一方に「こんな悩みを抱えている」という依頼主がいて、もう一方に「いくらでそのプロジェクト引き受けます」という個人のコンサルタントが待っている。そういう意味では、雇用の代替手段だったコンサルが、“頭脳のジャスト・イン・タイム”とでも表現できるようなレベルまで機動性が高まってきている。知の効率化、アイデアの効率化が劇的に進むこれからは、コンサルティング・ファームも規模だけを売り物にしていては苦しくなっていくかもしれません。
一方で企業の側も、何を社内のリソースで賄うのか、コンサルを含めて外部の知見を活用すべき分野は何なのか、そうした組み合わせの巧拙で生産性や収益が大きく変わってくるのではないでしょうか。
並木 個人公募型の契約が浸透していった場合、能力のレベルを表現しやすいエンジニアなどとは違って、コンサルタントはどれくらい実力があるのかを測りにくいという課題はありますね。でも、そういう「フリーエージェント社会」の到来は大きなうねりを起こしそうです。
村井 実はこの問題を突きつめていくと、確固たる理念を持った社長さえ一人いればいいということになるんです。年がら年中移籍していいサッカーチームのように、その時のニーズに応じて機動的な組織フォーメーションが組めるわけですから。
ただ、本当に強固な信念を持った経営者というのは、修羅場とも呼ぶべき経験を何度も潜り抜けて、テコでも動かないほどの覚悟を固めるというプロセスを経ているものです。そうした経営者と渡り合えるコンサルタントがどれだけいるかという点については、大いに疑問です。生産性重視の風潮の中で、テイラーメイドのコンサルティングを提供するよりも、パターン化した手法を横展開して型にはめ込む答えの出し方に偏っている気がします。修羅場を知らずして強いコンサルタントは育たないはずです。
並木 確かに。何の責任を負っているのかが不明確な仕事だからこそ、経営者と同等の覚悟を持ったコンサルタントの育成は重要な課題ですね。