日本のサッカーを強力なコンテンツに
育てるため外部の知見が必要なテーマとは?

並木 今、Jリーグのチェアマンという立場に立たれて、外部の知見を生かせるのはどんなテーマだとお考えですか?

村井 私は「x軸=フェア」「y軸=オープン」という座標をJリーグの経営方針のベースに置いています。ピッチ上のフェアプレー、財政の健全化を謳ったファイナンシャル・フェアプレー、人権的な視点に立ったソーシャル・フェアプレーという「3つのフェアプレー」と、世界のどこよりも開かれたリーグであることを目指す「オープン」、これらJリーグの土台となる概念を具現化することは自らの手でできるし、やるべきことだと思っています。

 外部の知見が必要になるとすれば「z軸」、すなわちエンターテインメントとしての価値を上げていく作業の中にテーマがある。例えばスタジアムの建設もその一つ。単なる競技場ではなく“劇場”としてのスタジアムをつくるために、ホテルを隣接させたり、ショッピングモールを併設させたりということを考える中では、都市開発や地域おこしの仕事に携わってきた専門家の力を借りることが重要になってくるでしょう。また、スタジアム内にwi-fi環境を充実させてリプレー映像を観客が手元の端末で即座に見られるようにするデジタル技術であったり、曜日・天候に合わせてチケットの価格が変動するプライシング・システムの構築なども該当します。内外の力を結集させて、日本のサッカーを強力なコンテンツに育て上げていくことが、私の役目だと考えています。

並木 なるほど、そういったアイデアが実現するのがとても楽しみです。

 今回お話を伺って、村井さんがJリーグにもたらそうとしている進化と同じくらいの大きな進化を、コンサルティング業界も求められていると感じました。私がマッキンゼーを退職して5年が経とうとしています。最初の1~2年はサバイバル・モード。経営者の依頼に応えようと必死にもがき、3~4年目は、一線級の経営者の方々とともに歩む機会も増えて、徐々に前職で立っていたステージに戻って来られたような実感が湧きました。

 そして5年目に突入した頃、私は大きな勘違いをするようになっていました。このまま成長していけば、いつかは前職と同じようなステージで、同じような規模の仕事ができるようになるのでは……と。

村井 でも、実際は違ったわけですね。

「依頼されるオファーの内容が少しずつ変化してきた」と並木さん

並木 意識が変わるきっかけになったのは、オファーを頂く仕事の内容が少しずつ変化してきたことでした。前職時代にずっと夢に見ていたような、国の成長戦略や政策立案のプロジェクト、日本中が注目する企業の再生プロジェクト、Jリーグのような夢溢れるプロジェクトが、私たちのような小さなコンサルティング・ファームに舞い込んでくる。村井さんのおっしゃるように、規模で仕事をする時代から「機動力」や「ともに歩みきる力」が求められる時代へと変化しつつあることを感じずにはいられません。

 人材の流動化とともに、コンサルティングという仕事にも新たな価値が求められるようになってきた。とても示唆に富んだご意見で、開眼いたしました。今日は本当にありがとうございました。