人材育成とは単に「従業員のスキル、能力を獲得させること」「そのための学習を促進すること」ではなく、その目的は「組織の戦略を達成する」「組織・事業を存続させる」つまり「企業の経営活動に資する」ことにある、というわけです。

 研修というのは、人材育成のための一手段です。先述したように研修開発の仕事は、研修テーマの立案やワークショップのデザイン、講師の選定など、どのような研修を企画するか、という部分にスポットを当てて考えがちですが、それらはあくまでも「学習を促進する」手段であって、目的ではありません。企業における人材育成の目的は、人材育成を通じて「企業の経営活動に資する」こと。そのことを忘れず、研修を企画する時は、その研修が、どのように「企業の戦略を達成」や「組織事業の存続」寄与するのか、ひとつひとつ意味づけていく必要があります。

人材育成に役立つのは
研修?それともOJT?

 実は「企業の経営活動に資する」人材育成の方法は研修だけではありません。人材育成の手法は歴史的に常に変化していますが、一般的に経営学の教科書などで語られる人材育成のカテゴリ―は「研修」「OJT(On the Job Training)」「自己啓発」の3つです。説明すると、「研修」は「一定期間、職場・仕事から離れた場で行われる教育訓練のこと」「OJT」とは、「職場において上司が部下に一定の仕事を任せ、アドバイスを行う中で行われる育成方法のこと」、「自己啓発」は「従業員が自発的に読書、資格取得e-learningなどを通じて自己学習すること」を指しています。

 A子さんは、「仕事は仕事をしながら先輩や上司からのOJTで学ぶものじゃないのかしら」と研修の教育効果について疑いを感じているようです、確かに仕事の経験を通してOJTで学ぶことは、人を育てるという意味では、最もパワフルです。実際、過去の研究からも成人が仕事をするに当たって必要な業務知識量を身につけるのは、仕事の経験が70%、上司(先輩)の薫陶が20%、研修が10%、などと言われています。これだけを比較すると、研修はOJTに比べて、学習効果が低いように感じるかもしれません。

 しかし、違う見方をすることもできます。一般に22歳から60歳まで働く約6万8400時間のうち、研修を受けている時間はどれだけあるでしょうか?会社によって異なりますが、例えば、1年間に3日程度が研修に充てられているとすると、それを全て積み重ねたところで、22歳から60歳まで、100日にも満たないことが分かります。とすると、時間的にはわずかな機会で10%もの能力発達が可能であるのであれば、非常に効率がいい、という考え方もできます。