第二に、効率的にテーマパークビジネスをマネジメントする能力を身に着けたこと。独自開発能力やアイデアがあるからこそ、アトラクションなどの設備投資を効率的にでき、利益率が高いのだという(同社の直近の売上高営業利益率は20%に達する)。

 そして第三に、クルーのポジティブな接客術だ。テーマパークを歩くゲストと積極的にコミュニケーションをとり、ハイタッチなどで場を盛り上げるクルーがゲスト満足を高めていることは、年間スタジオパスを持つリピーターの増加基調からも見て取れる。

 森岡氏はこうしたクルーの接客を「アメリカ的おもてなし」と評するが、ゲストの多くはこれを「大阪的おもてなし」と見ている側面もあると言い、独自のブランド価値が生まれているようだ。

「ハリポタ」の成否が試金石に
夢は世界展開でGDPに貢献すること

森岡CMOは、来る日も来る日もパーク内を歩き、ゲストの動向を分析する。自ら入場料を支払うことも

 将来の目標は、日本発のテーマパークを輸出して、GDPに貢献すること。それこそが前述した「第三段目のロケット」に当たる。USJは足もとで、大規模なテーマパークを関西以外に新設する方針を固め、候補地にはアジアの都市も入っていると報道された。それに向けて資金調達に乗り出すためだろうか、再上場の方針を固めたという報道も出ている(ただし、これらについてUSJ側からの正式発表はまだ行われていない)。

 むろん、東日本大震災後の客足復活、アジアをはじめとするグローバルなゲストの増加、新たなアトラクションの投入などにより、ディズニーランドなどの競合も勢いを増しているため、油断はできない。USJが今後も快進撃を続けられるかどうかは、目下第二段目のロケットとなる「ハリポタ」の成否にかかっていると言ってもよいだろう。

 その取り組みは、従来のビジネスの価値観から抜け出せず、不況やグローバル競争で勢いを失った多くの日本企業が復活を期すための、モデルケースにもなりそうだ。

「これからの日本企業では、マーケティングの重要性がますます高まって行きます。自分はクリエイティブや技術にはそもそも明るくないけれども、唯一絶対的に強いのが、消費者を一番理解していること。消費者のためにモノをつくらせることこそが、マーケターの使命なんです」(森岡氏)

 USJのV字回復の裏には、実はこんなドラマがあったのだ。その屋台骨を支えるマーケターは、これからも「アイデアの神様」を呼び続けることができるだろうか。

(取材・文・撮影/ダイヤモンド・オンライン 小尾拓也)

*USJへの取材は3月中旬に行なった


森岡毅著、角川書店、税込1512円

●編集部からのお知らせ

 森岡毅CMOの著書『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか? ~V字回復をもたらしたヒットの法則』好評発売中

 2011年以降、快進撃を続けるUSJ。新たなアトラクションやイベントを次々に投入し、既存のファンのリピート率を上げることに加え、新たな客層も取り込んでいる。足もとで年間集客数は、開業年度以来となる1000万人台を突破。USJはなぜV字回復を成し遂げられたのか。その立役者である森岡毅CMO(最高マーケティング責任者)による約3年間の取り組みの経緯をつぶさに紹介しながら、誰も知らなかったマーケティング手法の秘密をお伝えする。