「ストック」については、プライベートで興味を持った漫画の『ワンピース』を全巻読破、PSPゲームの『モンスターハンターポータブル 2nd G』を自分で400時間もプレイする、といった情報の蓄積によって、「ユーザーの感動」のツボを理解し、イベントのコンセプトへと結び付けた。
そして「コミットメント」は、どちらかと言えば精神論に近いだろうか。諦めずに必死に考え抜くことにより、脳がナチュラルな集中状態となり、夢の中でジェットコースターが後ろ向きに走る絵を見たことがきっかけで、「ハリウッド・ドリーム・ザ・ライド~バックドロップ」を思いついたというエピソードは、興味深い。
こうして見ると、森岡氏のアイデアは単なる思い付きではなく、宝探しのような緻密な思考によって導き出されていることがわかる。まさに「神のアイデアの正体は確率」。ひらめき型の右脳人間にはマネできない、左脳人間ならではのアイデア発想法と言えるのかもしれない。
ゲストの気持ちを理解するために
入園料を自腹で払ってパークを視察
そんな森岡氏は、今日も毎日のようにパークを歩き、観察を続けている。家族を連れて自ら入場料を払って入ることも、しばしばある。「同じ条件、同じ目線で見たり触ったりすることにより、ゲストの気持ちを理解しないと、よいアイデアなんて湧いて来ない」(森岡氏)というのだ。
マーケティングの魔法により、短期的に集客を増やすのは不可能ではない。しかし、「今後も毎年連続で集客を増やすためには、ゲストの体験価値を根本から上げ、ブランド価値を上げないといけない」(森岡氏)。だからこそ、自分自身のマーケターとしての勘を磨くことを怠らないのだ。
森岡氏は「世界最高クオリティのテーマパークは東京ディズニーランド」と認めながらも、テーマパーク産業におけるUSJの競争力は高いと自信を語る。
株式会社ユー・エス・ジェイの売上高は、東京ディズニーランドや同ディズニーシーを運営するオリエンタルランドと比べて2割程度と小さいが、入場料は大人の1日券の場合でディズニーランドより数百円高い。「パークのクオリティが高くなるほど値段を上げるのは当然。それに見合うだけの感動を提供しているんですから」(森岡氏)という自負があるのだ。
その強みは、第一にアトラクションのクオリティの高さ。自信の背景には、「世界最高ライド」の称号を欲しいままにしているライド・アトラクションの製作技術がある。また、「グローバルディズニーとグローバルユニバーサルスタジオで、ライド以外のアトラクションを独自開発できる能力があるのはUSJだけ」(森岡氏)であり、これにはUSJと米ユニバーサル社との間に資本関係がないことによって、独自性を打ち出し易いという事情もあるのだろう。