千葉ショッピングセンター店での研修
店舗研修 高山は、前職の時に社内販売で買ったダンガリーシャツにチノパンをはき、紺のブレザー姿で家を出た。
JR南船橋駅を降りて、高架下の通路を通って『ハニーディップ』の旗艦店のある千葉ショッピングセンターに着いた。
入館許可証を持っていなかった高山は、ショッピングセンターのオープンと同時に一般客と一緒に入場し、『ハニーディップ』の店舗に向かった。
店内にいる社員は全員女性で、オープン前の準備が押していたようで、まだ商品整理を行っていた。
「あの、本部から店舗研修に来ました高山といいます」 高山は店頭にいた女性に声をかけた。
じゃあ、こちらへ、と女性と共にレジに向かうと、明るい紫の薄手のブラウスにデニムをはいた、細身で背の高い神経質そうな女性がレジの前で作業をしていた。
「おはようございます。高山といいます」
その女性はレジの開局作業の真っ最中の様子で、しばらく無言で下を向いたままキーボードを打つ手を止めなかった。
「今、レジが本部とつながらなくて手間取っているから、ちと待ってて…」 作業完了まで数分待たされ、ようやくその女性は顔を上げた。
「ああ、あんたね…」
高山は、よろしくお願いしますとあいさつした。
そのキツネ目の女性は店長で、福山洋子と名乗った。
「あんたの研修期間は2週間だね。じゃあ、まず入荷した商品の検品をして」
女性ながら、きつい口調で話す福山から、売り場販売担当の女性に手順を教わるように指示を受け、高山はバックスペースに向かった。
わっ…、バックスペースに入った途端、高山は思わず息をのんだ。 段ボールの空き箱で作られた棚にストックされている商品在庫が天井まで、ほぼ隙間なく積まれ、壁が見えない状態になっていた。
「すごい量ですねぇ、この在庫。いつもこんな状態なんですか」
「そうなんです。今でも増えているんですよ。ブランドの本部からは、この店はよく売れるんだから、とにかく売れって言われていまして…」
販売担当の女性は言った。 高山が以前勤務していた紳士服チェーンの郊外型店も、在庫の回転の悪さは尋常ではなかった。
常に相当な量の在庫が各店のバックルームに保管されていたが、メンズスーツの場合は、よっぽど奇抜な柄やデザインの商品でもない限り、期をまたいでも販売員の接客力で何とか売り切っていくことができた。
しかしながら、この店は価格帯も低く、基本的にはお客様がセルフで購買するのが前提だろう。ここにある商品は、いったん残ってしまうと本当に売り切ることができるのか、レディースファッションには素人の高山も不安を感じた。