年譜(佐古口早苗『ブギの女王 笠置シヅ子』2010)によると、ほかに「浅草ブギ」と「ハリウッド・ブギ」の2曲を歌った、とあるが、前者は笠置の持ち歌ではなく、服部の作品でもない。後者はJASRACに登録されていなかった。

 1948(昭和23)年1月に「東京ブギウギ」が発売されると、あっという間に大流行し、この年はほかに6曲の「ブギウギ」が日本コロムビアから出ている。映画や舞台でも歌い踊り、日本中が「ブギウギ」に舞い上がった。しかしブームは1949年には終わり、50年の「買い物ブギ」が最後のヒット曲となった。

 ブルースについては連載第55回で書いた。米国の黒人によるブルースはやがてリズム&ブルースへ転じ、1920年代のレコード産業草創期にかなり録音されている。30年代に服部良一が日本の流行歌に取り入れ、大スター淡谷のり子を生んだわけだ。

 ブギウギはピアノ伴奏のブルースから生まれたリズムだという(北中正和『ロック』1985)。といっても、ブルースとブギウギのリズムを聴いても、ほとんど同じスイングに聴こえる。いずれにせよ、この4ビートのスイングのリズムがイーブンな8ビートになり、1950年代のロックンロール、そして60年代のロックへ引き継がれていく。

 服部良一のブルースは内向的でマイナーな世界、ブギウギは外向的で前向きの音楽である。奴隷解放後のアフリカ系米国人によるブルースがブギウギを経て白人社会に浸透し、ロックンロールを生む。そして欧州へ渡り、ロックを発達させた。こう簡単にまとめることができるのかどうか、ちょっと自信はないが、とりあえずこのように理解しておく。

 リズムはスイング(4ビート)から8ビートへ移っていくが、和声はごくシンプルなものだ。ただし、ブルーノート(第3、5、7音を半音下げる)をときおり挿入する。和音は属7(長3和音に短7度を重ねる。ド・ミ・ソ・シ♭)やメジャー6th(長3和音に長6度を重ねる。ド・ミ・ソ・ラ)を多用して4和音を使う。これがブルースやブギウギの特徴だろう。

 クラシック音楽からみると、1920年代にはすでにストラヴィンスキーが代表作を書き終えており、5管編成の管弦楽で5和音を使っている(「春の祭典」1913年)。シェーンベルクは12音技法を完成し、無調の領域に入っていた。

 日本のポピュラー音楽は中山晋平、古賀政男のヨナ抜き5音音階による流行歌から、戦争を挟んで服部良一の4和音によるロック前夜のブギウギが流行することになった。

 ただし、音楽は多様なもので、60年代以降は古賀政男のペンタトニック演歌もジャズ風の音楽もロック調の歌も同時に需要されることになる。

黒沢明が作詞した「ジャングルブギー」

 笠置シヅ子が歌う15曲のブギウギを全部聴いてみた。ビッグバンドを主体とした服部のアレンジは今聴いても古くさくない。「東京ブギウギ」はE♭(変ホ長調)で、コードは7thと6thを多用している。笠置のスイングは抜群の歯切れのよさで、だれでも踊りだしたくなる。

 3曲目の「ヘイヘイブギ」(ハ長調、C)もスイングで、途中、「アッ、ハッ、ハッ、ハッ」と笑い声を下降のスケールにしているところが面白い。ベルリオーズの「幻想交響曲」第5楽章から引用したのではなかろうか。また、コーダで聴衆と「ヘイヘイ」をやりとりする部分も楽しい。ブルーノートも効果的だ。