「自由ってそんなに大事?」拘束の縄を外された後の世界から見えてくる「人間の本音」写真はイメージです Illustration:PIXTA

大阪・吹田にある国立民族学博物館(民博)は、秋篠宮殿下や水木しげるなど、名だたる顔ぶれを虜にしてきた“知のワンダーランド”だ。様々な経歴の研究者が集うこの場所で、インタビュアーの筆者はひときわ異彩を放つ人物に出会った。同僚から「奴隷マニア」と呼ばれる歴史学者、鈴木英明氏だ。重く聞こえるテーマとは裏腹に、語り口は軽やかで痛快。なぜ“奴隷”なのか?その問いの先に、私たちの思い込みを揺さぶる世界が広がっていた。※本稿は、文化人類学者の樫永真佐夫監修・ルポライターのミンパクチャン著『変わり者たちの秘密基地 国立民族学博物館』(CEメディアハウス)の一部を抜粋・編集したものです。

奴隷のいた場所ならどこへでも行く
その行動力の原点は“好奇心”だった

「鈴木先生は奴隷の研究をされていて、奴隷のいるところなら世界中のどこにでも行くとうかがったんですが」

 正直、本当によくわからなかった。なぜなら、奴隷といえば歴史の授業で習う大西洋奴隷制度のイメージしかなかったからだ。教科書に載っていた、アフリカから船に乗せられて新大陸に運ばれていく黒人奴隷の絵にはショックを受けた。知識はそんな過去から発展していくアメリカの人権運動の歴史に限定されていた。他の地域にもいたという奴隷のイメージを思い浮かべることがなかったし、インド洋西海域世界の交易と奴隷制もうまく結びつかなかった。

「奴隷制のようなものがあったところには、どこでも行きます。仕事だから『奴隷』って検索するでしょ。そしたら、ぼくのパソコンはセーフサーチとか付けていない大人のパソコンですから、大変なことになるんですよ……。困りますよね」

 たしかに、そうだろう。大人の奴隷制は研究対象外らしい。しかし、先生はなぜ奴隷制というものに関心を持つようになったのか。