ザビヌルとショーターは共に革新的ジャズを創りあげるバンドメンバーをいつも求めていました。

 その鍵を握るのは、ベース奏者です。

 ベースは、リズムと和音の結節点です。ジャズ、ロック、ブルースなど、いかなるバンドにおいても、最も鍵となる演奏者となります。

 クラシックから現代ポップまで、全ての音楽に共通する定理があります。それは、その瞬間鳴り響いている音の連なりの性格を決定するのは、最低音だということです。例えば、ド・ミ・ソというハ長調の最も基本的な和音を奏でたとして、ベースがドを弾くか、レを弾くか、ソを弾くかで完全に響きが変わるのです。

 ウェザー・リポートのベース奏者は、初代がミロスラフ・ビトウスです。在籍2年余りで、2代目アルフォンソ・ジョンソンに交代しています。ジョンソン在籍時代の傑作が「ミステリアス・トラヴェラー」(写真)です。デビュー盤からの一層の飛躍を感じさせます。ザビヌルのシンセサイザーとショーターのサックスを支えるベースの躍動感は特筆に価します。

 しかし、ここに一人の若きベース奏者が登場します。彼の名はジャコ・パストリアス。

天才・ジャコ登場

 ジャコ・パストリアスは、地元フロリダでは知る人ぞ知る演奏家ではありましたが、全米的には全くの無名。それでも、強烈な自意識を持つ人物で、世界最高のベーシストであることを自負していました。そんなジャコは世に出るチャンスをうかがっていたのです。

 1975年の或る時、ウェザー・リポートのフロリダ公演が行われました。そこで、ジャコは自分の演奏したデモ・テープを持って、直接ザビヌルへの売り込みを敢行したのです。曰く「僕は、地球上に存在する最高のベーシストだ」と。ザビヌルは、この過激な売り込みに辟易して「俺の前から消え失せろ!」と叫んだそうです。

 しかし、ザビヌルはデモテープを受け取ったままでした。そして数ヵ月後、たまたまザビヌルはこのテープを聴くことになります。

「とにかく、すべてにノックアウトされた!」

 と、ザビヌルは後年、その時の印象を語っています。そして、テープの後ろに書かれていた番号に電話をかけ、全く無名のジャコ・パストリアスは天下のウェザー・リポートに参加することになったのです。