北海道の私学「道塾学園」に入学した中学1年生、財前孝史は伝統ある投資部の一員に。いきなり100億円の運用を任され、試行錯誤し考えを巡らせながら、投資家として急成長。彼が新たに目を付けたのは、ベンチャー企業だった――。投資×中学生という奇抜な取り合わせが反響を呼んでいる人気マンガ『インベスターZ』(週刊モーニング連載中)。その著者、三田紀房氏が、ベンチャーキャピタリストの磯崎哲也氏に日本のベンチャーの実際と未来を聞いた。

ベンチャーに必須の要素とは?

磯崎 『インベスターZ』、いつも面白く読ませていただいていますが、根幹となる「中学生投資家」というのが、いい設定ですよね。でも、主人公の財前君がベンチャー投資をやると言い出したときは、正直びっくりしました。

 既存のベンチャーキャピタリストはほぼ全員「中学生にベンチャー投資なんてできるわけがない!」と言うでしょうし、私も、「上場株投資はまだしも、さすがにベンチャーは無理だろ」と思ってしまったのですが、ちょっと考えた後に、それ自体が固定観念だったと反省しました。

 そもそも、いままで誰もやっていないことをやるのがベンチャー企業。そして、誰もが「こんなの無理だろう」と言いそうなことを実現させるベンチャー企業をうまく見極めるのが、ベンチャーキャピタルの仕事です。

 ですから、ベンチャー企業にしろベンチャーキャピタルにしろ、「こうすれば成功する」というモデルなどあるわけもないし、新しいチャンスを見つけ出す切り口は、ベンチャーキャピタリストごとにまったく異なっています。

 なので、「先入観に捉われていない中学生の財前君であればこそ、新しいベンチャーを発見する切り口もあるかもしれないぞ」と考えるべきでした。

三田 そうですね。財前は中学生なのにどこかカリスマ性と天才性も持っていますから、彼ならではのベンチャーへの投資ができるかもしれない。漫画のキャラクターには、どこか突き抜けたところや天才性がないと、読者がワクワクしてくれないんですよ。ただ、描いていて難しいと思うのは、漫画の読者は投資のプロではないので、そもそもベンチャーとは何か、ベンチャーに投資するとどういうことが起こるのか。そういうところから描いていかないといけないところです。そのあたり、磯崎さんでしたらどう説明しますか?

磯崎 ベンチャーのイメージを一般の人に説明するのは、すごく難しいんです。そこをあえて一言で説明すると、「イノベーションを起こすのがベンチャーだ」ということになるでしょうね。夫婦でコンビニエンスストアや喫茶店を始めるのは、立派な「起業」ではありますけれど、イノベーションを起こしているとはいえませんから、あまりベンチャーとは呼びません。イノベーションとは、これまでになかったこと、誰もやっていなかったことをやることですから、そもそも、ほとんどの人には理解してもらえないものなんです。

 投資する側にとっても、リスクは非常に高い。会社がうまくいかなくて、投資した金額がゼロになってしまうこともありますし、投資した会社が数千億円の企業価値になって、資金が数百倍になって返ってくることもあります。

 このため、「ベンチャー」と呼ばれるものの中には、スゴいものと怪しいものが混在しています。ですから、ベンチャー経営で最も重要なことの1つは、「いかに信用を得るか」ということになります。