『起業のエクイティ・ファイナンス』の出版を記念してお送りする本連載の第5回として、「優先株式」の概要を紹介します。優先株式を使えば、リスクの高いアーリー・ステージのベンチャーでも1億円以上の資金調達が可能になり、将来的に巨大企業になる可能性を大いに高めることになります。

優先株式とは何か

 この連載および『起業のエクイティ・ファイナンス』「優先株式」と言っているのは、普通株式より優先的な条件が付いた種類株式のことです。日本の法律上では、会社法の「株主の権利」(第105条第1項)に定められている株式のメインとなる性質は以下の3つです。

  1.剰余金の配当を受ける権利
  2.残余財産の分配を受ける権利
  3.株主総会における議決権

 1.と2.が株式の経済的な権利、3.が会社をコントロールする権利です。
 そして、会社法の「異なる種類の株式」(第108条第1項)では、次に掲げる内容について異なる定めをした内容の異なる2以上の種類の株式を発行できることになっています。

  1.剰余金の配当を受ける権利
  2.残余財産の分配を受ける権利 ☆
  3.株主総会における議決権の範囲の制限
  4.株式の譲渡制限
  5.株主からの取得請求権(プットオプション) ☆
  6.会社による取得条項(コールオプション) ☆
  7.全部取得条項(株主総会の特別決議で取得)
  8.種類株主総会での決議事項
  9.取締役又は監査役の選任権

 このうち、ベンチャー企業が投資を受ける際の優先株式に使われる重要なものは、主に上記に「☆」を付けた3つです。*1

*1  投資契約や株主間契約も含めれば、7.の全部取得条項以外の要素はだいたい用いられます。米国では、株主数が多く調整コストが大きいことから、優先株式の要項にこれらの要素をすべて盛り込んでしまうことが多いですが、日本の実務ではフレキシビリティを考えて、優先株式の要項ではなく契約でこれらの定めをするほうがふさわしい場合が多いと思います。

重要さを増す優先株式

 優先株式は、今後のベンチャー・ファイナンスを理解するうえで重要な柱の1つです。

 従来、日本のベンチャー投資に使われてきた株式はほとんど「普通株式」でした。しかし、シリコンバレーをはじめとする世界のベンチャーキャピタルがベンチャーに対して投資する場合には、ほぼ必ず優先株式(preferred stock)が使われます。

 日本でも、投資家に有利な条件がついた会社法の種類株式を優先株式として使うことが可能ですし、アーリー・ステージなどで1億円以上の投資が行われる場合には、優先株式が使用されることが増えてきました。そして今後10年、M&Aの増加や投資額の増大と表裏一体に優先株式が使われるケースは増えていくと想定されます。