『起業のエクイティ・ファイナンス』の出版を記念してお送りする本連載。今回からは、同書のエッセンスともいえる、ベンチャーの「資本政策」「投資契約と持ち株比率の問題」「優先株式」の解説のさわりをご紹介します。まずは、ベンチャーにおける資本政策の重要性と、エクイティ・ファイナンス(株式による資金調達)の意義についてです。
なぜ、ベンチャーにとって
資本政策が重要なのか?
「資本政策」というのは、資金調達や株式公開などを考慮して、必要な金額が調達できるか、公開時の持株比率は妥当な水準か、などを考慮する戦略や計画のことです。*1
平たく言うと、
「どのような株主に、いくらの株価で、何株分の株式を割り当てて資金調達するか」
「どの従業員にどのくらいストックオプションを割り当てるか」
といったことになります。
ベンチャーにとって資本政策が非常に重要だということは、前著『起業のファイナンス』のメインテーマで、今までも繰り返し口を酸っぱくして言ってきたことですが、創業期の資本政策を甘く見て後悔している人は、いつまでもいなくなりませんので、重ねてここでも言っておきます。資本政策は重要です!
そして特に、会社を立ち上げたばかりの創業期の資本政策が重要なのは、資本政策はあとからやり直すことが非常に難しいからであり、それにもかかわらず創業期が一番、資本政策に関する知識が乏しいことが多いからです。
また、株価は企業価値に比例します*2ので、企業が成長すればするほど株価は上がっていきます。逆に言えば、創業期というのは最も企業価値が小さく株価が安いときであり、少しの資金を調達するのに大量の株式を発行しなければなりません。大量の株式を発行するということは、株価や割当先などの、ちょっとの違いが大きく後々に影響してくるということでもあります。
創業期に考えるべき資本政策は、「ベンチャーの未来に起こるすべてのこと」に関連しますが、本章で資本政策を網羅的にお話するのは難しいので、基礎的なことは、ぜひ前著『起業のファイナンス』をお読みいただければと思います。
*1 「資本政策表」は、その計画を表にしたもののことです。Excelがあれば誰でも作れますので、実際に数字を入れて上場またはそれ以降までの計画を作ってみることが大切です。
*2 正確には「発行済株式数や潜在株式数が同じ条件なら株主資本価値に比例します」です。