「将来は当たり前」を先取りする企業に投資したい

三田 他に、日本のベンチャー生態系に不足しているところはありますか。

磯崎 会社設立直後の「シード」「アーリー」と呼ばれる時期に対する、少額の投資はここ数年、どんどん増えています。ですが、そこへの億円単位の投資はまだまだ少ない。その超初期の段階に億円単位の資金を供給することを担っているのは、まだ5~10社くらいです。

三田 そんなに少ないんですね。設立直後でどうなるかわからない企業に投資するのは、やはりリスクが高いわけですか。

磯崎 そうですね。ですから、そのあたりこそ優先株式を活用して、リスクを極力回避しながらやっていく必要があるんです。

三田 優先株式でリスクヘッジがある程度できるとはいえ、海のものとも山のものともわからない企業であることには変わらない。やはり、リスクを抱えながらも「これは面白い!」と心底思える投資先を見出すことが大切になりそうですよね。

磯崎 私が思う面白いベンチャーは、「いまのところ存在しないけれど10年後には当たり前となっている領域」を開拓している企業ですね。そういう観点から、われわれが投資してきた企業には、課金モデルで「cakes」「note」といったデジタルコンテンツを提供する株式会社ピースオブケイク、iPadで予約のインフラを提供する「トレタ」、日本最大のインテリア写真共有サービス「RoomClip」、ネット上で「接客」を可能にするサービス「KARTE」、社会貢献と投資の魅力を兼ね備えた投資商品を提供して発展途上国などに資金を供給する「クラウドクレジット」などがあります。

 インターネットは1990年代中頃に広まって以降、ずっと広告モデルでしたが、広告満載の画面にクリエイターが作品を載せたいとは限らない。ビジネスで用いるデバイスも、リテラシーがないと使えない「パソコン」から、高校生のバイトでも使える「タブレット」や「スマホ」に移行しています。今までのネットではお客を呼んでくる「集客」ばかりに目が行って、リアルの店舗では当然に行われている「接客」が十分に行われてこなかった。こうした「時代の大きな節目」を捉えたベンチャーに投資したいと思っています。

三田 今後、日本では確実に生態系が広がっていき、優れたベンチャーが続々と増えていくと言い切ってよさそうですね? 日本じゃいろいろ騒いでも、結局何も根本は変わらず、実際は大企業が生き残るんだなということになると、ちょっと失望してしまいますから。ベンチャーがたくさん出てきて、世の中の眺めが変わり、大きな希望を感じさせてくれることを心から願いたいんですよ。

磯崎 日本でもここ15年で、ベンチャーによって兆円単位の価値が生み出されてきました。その世界には、キラキラした目をして自由に活動をしている人たちがたくさんいます。魅力的な場ですよ。ベンチャーやベンチャーキャピタルに参入する人や資金を制限する愚策が行なわれないかぎり、日本のベンチャー生態系はこれからも間違いなく成長します。

 『インベスターZ』もその成長に力を貸していただけるとありがたいです。財前君がベンチャーに関わっていってくれれば、より多くの人が親しみと関心を持ってくれることになる。これからの作品の展開、たいへん期待しています。

三田 はい。若い人が日本の未来に夢を持てるような、ワクワクできる話をつくっていけたらと僕も思っていますので。この『インベスターZ』で、ベンチャー企業やベンチャー投資の価値をおもしろくてタメになる形で世に出していきたいと思います。

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