ネットワーク機器や会議システムの開発、販売では世界的大手のシスコシステムズは、テレワークシステムのベンダーとしても知られる。自らも2001年から在宅勤務制度を導入し、進化するテクノロジーを駆使するだけでなく、テレワーク成功のカギとも言える企業風土や人事評価制度などのブラッシュアップに力を入れてきた。(取材/ダイヤモンドオンライン・津本朋子)

「今、ちょっといいですか?」。ある週末のこと。自宅で仕事をしていたら、シンガポールのオフィスで働くスイス人の上司から、チャットでメッセージが入る。システムにログインすると、私が働いていることがオンラインで上司に分かるから。でも、ノーメークの顔は見られたくないな。「顔はダメだけど、チャットならいいですよ」。そう返信をした――。

 モニターから顔を上げれば、上司も部下もそこにいる。みんな同じオフィスで仕事をするのは当たり前。そんな常識は何だったのかと自分を疑いたくなるくらいにテレワークが日常に溶け込んでいるのが、シスコシステムズという会社だ。同社が在宅勤務制度を導入したのは2001年。テクノロジーの進化とともに、テレワークは単なる在宅勤務を超えて、「どこにいても働けて、移動の無駄と疲労を省ける」仕組みとして機能している。

メールや音声だけでは限界が
画像技術の進歩がテレワークを変えた

 シスコのテレワークの変遷を見れば、テクノロジーの進化がよく分かる。IP電話やルーターを貸し出し、テレワークを本格的に推進し始めたのは、家庭の高速ネットワーク通信環境が進み始めた04年頃のことだ。これで、パソコンだけでなく、会社にかかってくる電話も受け取ることができ、自宅と社内のネットワーク環境が同じになる。「ただ、最初は希望者がさほどおらず、会社から適すると思われる人を指名してテスト導入してもらった」。営業を手がける上野由美・コラボレーションアーキテクチャ事業部シニアプロダクトマネージャーは、こう話す。自らも、この導入段階から活用し、子育てと仕事を両立してきた。

 何しろ今と違ってルーター1つとっても、両手で抱えなければならないほど大きかった時代だ。「スペースを取るのがいやだ」との意見も多く、また、テレワーク自体にイメージが沸かない社員が多かった。