『週刊ダイヤモンド』9月20日号の特集は「新幹線50周年! 魅惑のJR・鉄道」。新幹線・在来線の歴史と魅力、JR各社の経営を60ページに渡り紹介しているが、ここではその特集の一部を抜粋してお送りする。新幹線や在来線の運行を支える、鉄道会社の社員。正確な運行と、人の命を預かる仕事だけに、現場では多くの難問が鉄道員たちを襲うのである。元JR某社社員の筆者がその壮絶を明かす。

 JRなどにとって、行楽客や帰省客が多い夏は、「夏季輸送」と呼ばれる書き入れ時である。

 私が配属された支社では、沿線に海水浴場があり、この期間だけ、海沿いの無人駅に駅員が置かれた。

 派遣される駅員は、ベテラン駅員と大卒総合職の新入社員という組み合わせである。研修中の新入社員は、書き入れ時の臨時要員には最適で、技術系の私も含めて、皆、駅員に仕立てられた。

 無人駅は、近くの有人駅が管轄しており、その駅長の指示を受けることから勤務は始まった。

「若いお客さまには気を付けて。警察にも話はしてあるから」。意外にも、駅長は物騒な注意をした。

 海水浴に来る人の多くは自動車を利用するため、鉄道を利用するのは高校生ばかりである。彼らの中には、初乗りの切符だけを買って、そのまま無人駅で降りようという魂胆の人がいる。そのため、無人駅に人を配置するのだ。

 まさに、鉄道会社と高校生の知恵比べだった。無人駅のホームには逃亡防止用のフェンスが張られ、普通電車でも車内検札が行われる。無人駅にいる駅員は、乗客が改札に来るまで駅舎に身を隠し、不意打ちで改札を行うのである。

 しかし、「深追いはするな」「けがだけはするな」と、駅長は何度も念を押した。

 覚悟はしたが、実際に勤務が始まってみれば、退屈な時間との闘いだった。列車本数は上下を合わせても30分に1本程度。無賃乗車の海水浴客が乗るのは、そのうち午前中の下りだけで、1日に3本程度しかない。