鉄道輸出額の日本記録更新!
英国で高速鉄道車両を受注
世間はロンドンオリンピックの話題で持ちきりですが、開幕に先立つ25日、英国と歴史的大契約を勝ち獲った企業があります。
その企業とは日立製作所(6501)です。特別目的会社のアジリティ・トレインズ社を通じ、英国の主要鉄道幹線である「イースト・コースト本線」「グレート・ウエスタン本線」(路線距離約1000km)を走る、高速鉄道車両596両(!)の正式受注に成功したのです。
実はこの契約、09年2月に日立製作所(6501)が優先交渉権を得ていたのですが、10年2月に英国総選挙への影響回避のため凍結されました。昨年3月から交渉が再開して、ようやく最終契約が確定しました。ヒヤヒヤしましたが、審議でも判定が覆らなかったのはラッキーでした。
約30年間に及ぶ保守事業も付いて、総事業費は45億ポンド(約5500億円)。これは英国鉄道史上最大規模のプロジェクトであり、日本の鉄道輸出額での新記録です。まさしく“金メダル級の快挙”と言えます。
英国は鉄道発祥の国です。1825年9月27日、ストックトン・アンド・ダーリントン鉄道で「ロコモーション号」が600人の乗客を乗せて、19kmを約2時間かけて走ったのが最初でした。
その鉄道が海を渡って日本に最初に敷設されたのは47年後の1872年(明治5年)、英国の技術指導の下に品川-横浜間が開業しました。10両の蒸気機関車はもちろん全て英国からの輸入でした。
それが140年の時を経て、596両もの最新鋭車両を返すことになろうとは(実際には現地工場で製造されるとは言え)。2018年以降、さらに追加で500両を受注する可能性もあるとのこと。これが実現すれば蒸気機関車10両を輸入してから「150年後の100倍返し」になります。
ちなみに、日立製作所(6501)は2009年にも英国に鉄道車両を納入しています。「サウスイースタン本線」を最高時速200㎞/hで走る、高速鉄道「クラス395電車」です。この鉄道車両には「オリンピック・ジャベリン」の愛称が付いており、まさに今オリンピックを観戦する乗客を乗せて大活躍しています。
鉄道は人々に愛される乗り物です。日本の鉄道が外国で採用されるのは、日本人としてとても誇らしく、嬉しいことです。しかし、日本の持てる優れた鉄道技術の割には、世界での採用事例は多いとは言えません。
世界の鉄道業界にはボンバルディア(加)、シーメンス(独)、アルストム(仏)の「ビッグ3」が立ちはだかっていて、日本の車両メーカーは束になってかかっても規模では勝負になりません。
そこで「技術で勝負!」というわけですが、それにも色々と、克服しなければならない課題があるようです。
日本の鉄道をもっと世界に!
クリアすべき課題とは
日本の車両メーカーは長らく日本の鉄道会社(JRなど)の要望に応じた車両を造ってきたのでお手のものかとも思うのですが、そうばかりでもないようです。
例えば昨年、高速鉄道の安全基準策定を進めていた米連邦鉄道局が、川崎重工(7012)や、日本車輌(7102)など世界主要鉄道メーカー9社に13項目の安全基準案を示してきました。
それは「停車中の貨物利列車と時速35㎞/hで衝突しても乗員乗客が生存できること」「重さ18トンの鉄製コイルを積んだトラックに衝突しても運転士が生存できること」「重さ6キログラムの鉄球が運転席に衝突しても貫通しないこと」などで、それを知った日本企業は一様に戸惑ったコメントを出していました。
そもそも日本の鉄道は衝突する前に停止するよう、信号技術などで何重にも安全対策が取られているので、そんなワイルドな危機を想定する必要がないからです。対応しようとすれば車体も大きく重くなり、燃費も悪くなります。
それでも発注元が「そうじゃないと安心できない」と言うなら、それに応えるのがものづくりです。本気の川崎重工(7012)は、ちゃんと衝突安全基準をクリアするための開発を進めているみたいです。さすがです。
逆のパターンもあります。日本の鉄道は安全性を極限まで追求するあまり、高額です。これは専門家の方に聞いた話ですが、安全性を96%で良とするならそこそこの価格でできるが、100%に近づけようとする残り3.x%のコストで価格が倍額近くに跳ね上がってしまうのだそうです。
すると「安全性は96%で十分。節約できた分を万一の補償金に充てるほうが効率的だから」と言う国もあるそうです。日本では「えっ!?」となる話ですが「顧客ニーズに応じて安全性96%の車両を売ることも必要ではないか」と、その方はおっしゃっていました。
もちろん、深刻な列車事故が起これば製造国として評判が落ちるわけで、安かろう悪かろうな車両を輸出しろと言うのではありませんが。
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