海兵隊は独自に2タイプの水陸両用戦車も開発していた。1つは水陸両用の装甲兵員輸送車、LVTに砲塔を搭載したものであり、もう1つはM4戦車を改造したものであった。特に後者はエンジンが収められていた車体後部から巨大な吸気・排気用装置が上に伸び、海岸の浅瀬で威力を発揮した。

 これらはノルマンディーでは使われなかったが、もっと使われてもよかった(ノルマンディーで使われた水陸両用戦車は英軍が開発したものだ)。いや、使われるべきだった。

 その背景には、組織の常として、米陸軍による海兵隊へのやっかみ、あるいは強固な縄張り意識のようなものがあったのではないだろうか。海兵隊の奴ら、太平洋諸島で日本軍を華々しく蹴散らしているようだ。でも、あいつらはあいつら、俺たちは俺たちだ。ここ西部戦線で、連中の助けなぞ借りたら、わが陸軍の沽券に関わると。

 実際、端的なやっかみの例がある。アイゼンハワーの上司である陸軍参謀総長ジョージ・マーシャルは米国上陸軍の司令官を務めたオマー・ブラッドリー中将に、「この男をうまく使え」と、ピートという1人の優秀な海兵隊員をよこしたのだが、ブラッドレーはそのピートを重用せず、閑職に追いやってしまったのだ。

 海兵隊員だったら、水陸両用作戦の実践ノウハウを豊富に備えていたはずだ。ブラッドレーに、「マーシャルがせっかく派遣してくれた男から学ぼう」という意識があったら、英国、カナダ軍と比べ、米軍が上陸する海岸に向けた艦砲射撃の時間を短くするという愚を犯さなかっただろうし、海兵隊が誇る小型の戦車揚陸艇を借りて使い、これまた海兵隊独自の水陸両用戦車を初期段階に上陸させられかもしれない。それができたら、オマハでの恐るべき犠牲も生じなかったかもしれないのである。
 

軍事技術・戦術におけるイノベーション【4】<br />水陸両用作戦〈米国海兵隊編〉

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