学生時代に
「経験学習」しているか
これらの詳しい説明は少し後にして、しばらく話は横道にそれます。
「経験学習理論」についての話をしましょう。
もうずいぶんと前になりますが、他社の人事仲間と一緒に「大学時代の過ごし方がキャリアをつくる」という緩いタイトルの学会発表をしたことがあります(日本キャリアデザイン学会、2007年)。
採用選考で出会う学生から感じる成長度合いの差、入社後の若手の成長スピードの差といったものが、大学生活の過ごし方と何か相関があるのではないかという仮説に基づいた研究で、816名の大学生への質問紙調査がベースになっています。
この研究では、大学生活の過ごし方と大学時代の成長にはさまざまな相関がみられたものの、何をやったかという内容そのものの差よりも、その活動をどれだけ重要視してやったか、中途半端ではなくやり切ろうとしたのか、終わったあとに意味づけがきちんとできているか、といった要素が実はとても大切だということがわかりました。
その後も研究を続け、そのプロセスで出会ったのが、現在は北海道大学におられる松尾睦教授の著書『経験からの学習』(同文舘出版)です。不勉強であった私たちはここで初めて知ったデービット・コルブの「経験学習理論」こそがキーだと感じ、翌年には「大学生が社会人基礎力を経験学習により向上させるプロセス」(日本キャリアデザイン学会、2008年)という研究発表をまとめ上げました。
経験学習理論は、今では企業内人材育成の世界でも普通に語られるようになりました。松尾陸先生がビジネスパーソン向けに書かれた『職場が活きる人が育つ 「経験学習」入門』(ダイヤモンド社)は人材育成担当者必読の書の1つです。
経験学習について、詳しくここで説明することはしませんが、その松尾先生ご自身が、この「経営×人事」にも連載を持たれていますので、ご案内したいと思います。「迷えるマネージャーのためのOJT完全マニュアル」がそれですが、その初回で経験学習理論について、平易な解説をしてくださっています。
エッセンス部分だけをごく簡単に引用させていただきます。
『経験学習は、「仕事の経験をした後、その経験をきちんと振り返り、うまくいったこと、うまくいかなかったことを内省し、そこから教訓を導き出し、新しい仕事に適応することで深い学びを得る」ものです。この流れを示したのが上記の「経験学習サイクル」です』
このサイクルを回せるようになった人は強いです。成長の自走ができるようになります。逆に言えば、仕事の中から成長ができたという人は、このサイクルがそれなりにきちんと回せている人です。
これは企業に入ってからの仕事だけでなく、大学生活でもまったく同じだと思います。しかし、多くの大学生はそれに気づいていません。すべての大学の初年度キャリア教育の中で、しっかりと経験学習理論に基づいた講座を提供し、それを日々の授業、アルバイト、サークル活動において意識できるようにすれば、どれだけ実践的なキャリア教育になることかと思うのですが。
そして面接官も、この経験学習のサイクルを意識して質問をすることによって、学生をより理解することができます。