12月10日、製薬大手エーザイは米国MGIファーマの買収を発表した。買収価格は39億ドル(約4350億円)。エーザイどころか日系製薬会社の海外案件としても過去最大級となる。

 MGIファーマは現在、エーザイが強化を進めるガン領域に強みを持つ製薬会社。1979年の創立と歴史は浅いが、近年、企業や販売権の買収、新製品の発売を通じて、2006年12月期までの4年間で売上高を13倍、3億4279万ドル(約380億円)にした。現在開発中の新薬も豊富で、ワクチンなどエーザイとは技術が重複しないバイオ技術が“売り”である。

 「(中期戦略計画で掲げた)米国マーケットでの2ケタ成長を確たるものにし、2011年度の売上高1兆円の達成を確実なものにする」と、記者会見に臨んだエーザイの内藤晴夫社長は、この案件の意義を力説する。

 今期も7390億円の売上高に対し1210億円の経常利益と高収益を見込むエーザイだが、じつは懸案を抱えていた。1997年に発売し、昨年も米国で35%もの伸びで1622億円の売り上げを記録したアルツハイマー病治療薬「アリセプト」の特許が2010年11月で切れるからだ。

 日本と違い、米国では先発品の特許が切れると、大半がジェネリック医薬品に移行し、先発品の売上高は急減する。エーザイとしても、パッチ(貼付)剤の開発など新たな対策を打っていたが、売り上げ減は避けられない状況だった。

 だが、この買収が成功し、目論見どおり今後5年間で平均35%の成長を見せれば、1700億~1900億円程度の売上高は十分期待でき、アリセプトの減少分を補ってお釣りがくる。

 4000億円超かつ、大半が期待料である“のれん”になるリスクを取ったとあって、日系製薬関係者からは「創業家の社長だからこそできた“英断”」とやっかみ半分の声も上がる。しかし、ほかの製薬大手も高みの見物を決め込める状況ではない。武田薬品工業をはじめ米国で販売を展開する大手製薬会社はまもなく主力製品の特許が切れる“2010年問題”を抱えるが、いずれも決め手となる対策を打ててはいないからだ。

 時間は残り少ないが、幸いどの企業にもカネはある。この案件は日系製薬会社による巨額買収時代の幕開けとなりそうだ。
(『週刊ダイヤモンド』編集部 佐藤寛久)