「こちらから欲しがれば、価格が高くなる」。思わず、小野寺正社長兼会長が、本音を漏らした。
1月25日、KDDIは、過去最大の3617億円を投じ、国内最大手のケーブルTV事業者であるジュピターテレコム(J:COM)の筆頭株主(37・8%)になると発表した。J:COMは、規制緩和を背景に、隣接地域を吸収するM&Aで急成長を果たした。現在では、ケーブルTV、固定電話、インターネット接続、PHSまでサービスを拡充し、全国5大都市圏でNTTに対抗できるアクセスライン(ブロードバンドサービスを家庭まで送る通信回線)を持つ、ほぼ唯一の存在である。
じつは、2005年にJ:COMが株式上場した際、2大株主である住友商事と米リバティ・グローバル社は「持ち株の処分について、2010年の2月中に結論を出す」という趣旨の株主間協定を交わしていた。それを知っていたKDDIは、待ち続けた。09年の夏から始まった大株主間の協議において、どちらか一方が手放す意思を示した時点で、電撃買収に踏み切る構えだったのだ。
その日に備え、KDDIはすでに国内2位のJCNを傘下に収めてもいた。J:COMを手に入れたことにより、有料TVの加入世帯規模では、上位2社の連合軍と、業界3位企業とは10倍以上もの“圧倒的な差”がつけられる。
結果的にKDDIは、日本市場の成長性に見切りをつけた米リバティ社の持ち分を取得したわけだが、たとえ国内のケーブルTV(単体)の成長が頭打ちでも、KDDIには大きな意味がある。自前のアクセスラインが増えれば、それだけNTTに回線を借りる必要が減る。そして、直接収入になるサービスが増えれば、収益構造を好転させられる。さらに、競争政策上の観点で、NTTには禁止されている固定電話と携帯電話の連携も、KDDIは推進できる。
今回の電撃買収は、将来的には“強いNTT対抗軸”に発展する可能性が高い。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 池冨 仁)