適量なら「百薬の長」だが、依存症リスクも大きいアルコール。依存症以前に、なぜ毒になるほど「酒を欲する」のか、という研究も行われている。
発端は、2009年にドイツの研究グループから報告された動物実験の結果だった。それによると、空腹時に胃の細胞から分泌される食欲増進ホルモンの「グレリン」は、脳に働きかけ摂食行動を促す以外に、アルコール摂取も促すというのだ。実際、脳にグレリンを注入したマウスは水よりアルコールを選択した。しかも、グレリンの刺激を受ける器官は脳内で快を生みだす「報酬系」にあり、快楽を求め、アルコールへの渇望に拍車をかける可能性が示唆された。
その後、人を対象とした研究でも血液中のグレリンレベルと、アルコール欲求の間に相関関係があることがわかった。つまり、血液中のグレリンレベルが高いと、アルコールに対する渇きを抑え難く、低い場合はアルコールへの欲求が抑制される。
米アルコール乱用・依存症研究所(NIAAA)の研究者らは、無治療の大量飲酒者45人を3グループにわけ、体重1キログラム当たりグレリン1マイクログラムと3マイクログラム(グレリン群)、0マイクログラム(プラセボ群)を静脈内に投与し、影響を検討した。被験者は投与後に、有名なアルコール飲料の写真などの「刺激」を与えられ、アルコール飲料やジュースへの欲求を評価されている。
その結果、グレリン群はプラセボ群に比べて、アルコールへの渇望を大きく募らせた一方で、ジュースへの欲求にはほとんど影響しなかった。また、投与グレリン量が多いほど、アルコールに対する「飢え」は大きくなったのだ。研究者らは「グレリンを標的にしたアルコール依存症の治療法ができる」可能性を指摘している。
さて、今回の研究結果から自衛手段のヒントになるのは、食欲と飲酒欲は表裏一体だ、ということ。空腹で疲労困憊しているときに手っ取り早く「酒」で紛らわすクセは危険だ。面倒でも先に煮物や刺身などを食べてから、ゆっくり酒を楽しもう。逆に、漠然とアルコールが欲しいときは空腹を疑い、甘い物でしのぐのも一手である。
(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)