東京海上日動火災保険がマレーシアで営むイスラム保険(タカフル)事業が急拡大している。

 タカフルとは“相互扶助”を意味するイスラム教徒向けの保険。少額の保険料で多額の保険金を得る場合などの不確実性を排除したり、集めた資金を運用する際には利子を回避するなどイスラム教に沿った保険だ。

 同社は2006年11月、イスラム金融先進国のマレーシアで合弁会社、ホンリョン東京海上タカフル社を立ち上げた。実質初年度といえる2007年7月~08年6月の拠出金(保険料収入に相当)は約1.7億リンギット(約56億円)となり、マレーシア第3位のタカフル会社に躍り出た。

 また、単年度黒字も達成した。一般に新設保険会社が黒字化するには早くても5年かかるが、銀行が販売する住宅・自動車ローンに付帯する保険商品のため自前で販売網を持つ必要がないことや、事務処理をアウトソーシングするなど身軽な経営に徹したことが早期達成の理由だ。

 今後は銀行以外の販路も拡大する。その第一弾がアジア各国でイスラム教徒向けにコンシューマーファイナンスを手がけるイオンクレジットサービスとの提携で、ほかにも個人保険代理店などとも販売提携の準備を進めている。

 さらにタカフルは新たな展開を見せ始めている。「リテール向けにスタートしたタカフルに対し、商社や自動車メーカー、ゼネコン、流通など多くの企業が関心を持ち始めている」(綾部敦彦・ホンリョン東京海上タカフル社ゼネラルマネジャー)というのだ。

 たとえば、イスラム教徒向けの食品輸送やイスラム債で資金調達したビル建設。これらの保険には、イスラム教に沿ったタカフルがふさわしいと考えられるためだ。

 急成長しているタカフル。歴史が浅くノウハウ不足の面は否めないが、今後の動向次第ではそうとう大きなビジネスになる可能性を秘めている。

(『週刊ダイヤモンド』編集部 藤田章夫)