うつぼ。やっぱりグロテスクで怖いです…

「怖そうな顔をした、ヘビみたいなグロテスクな生きもの」

 普通の人にとってはそんなイメージが強い存在、うつぼ。しかし、高知県人はみな「あんなに美味しいものはない」と口を揃えるほど、高知の老若男女に愛されている。その「局地的うつぼ愛」は前回お伝えしたとおりだ。

「そんなにおいしいなら今度、家でさばいてみようかな…」とつぶやいていたら、高知県須崎市の水産加工会社「みなみ丸」のオーナーでもある森光貴男さんから思わぬ答えが返ってきた。

「とんでもない!家ではムリです。さばけるようになるまでには2年以上の“修行”が必要です」(森光さん)

 ますますミステリアスになるうつぼ……一体どんなさばかれ方をしているのだろうか。高知県須崎市にいる熟練のさばき技を持つ職人を尋ねることにした。

初めてだと1本2時間かかる!?
プロでも厄介なうつぼのさばき

細川國男さん。じつは、うつぼばかりか、海とは無縁の岐阜県出身!

 須崎市内には現在、うつぼをさばく技術を有する十数名の職人や料理人がいる。さまざまな、うつぼ料理が楽しめる居酒屋「大吉」のご主人である細川國男さんもそのひとり。森光さんの「うつぼさばき師匠」だ。

「身はプリプリで、ゼラチン質のとろりとした部分がとても美味しいですよ」と細川さん。

「でも、さばくのは本当に厄介な魚。魚のなかで、いちばん手間がかかるね」

 細川さんも、さばき方をはじめて習ったときには1本2時間かかったという。それでは商売にならない。「10分くらいでさばけるようになるまでには2年はかかったね」。それでも毎日、「感覚をつかめるようになるまで」出だしの1、2本は腕ならしだという。

 さっそく、細川さんに、うつぼをさばくところを見せてもらうことになった。大きな、まな板の上には、でーんと立派なうつぼの姿。「これで3キロくらいだね」。美味しいサイズは皮と身のバランスがよい2~3キロくらいのもの。「それ以上になると味がしなくなる」そうで、大きければいいというものではないらしい。

「うつぼは通年獲れるけど、12~2月ごろが、肉厚で脂のノリも、ほどよくていちばん美味しいね」と細川さん。うつぼは、高知では専門に釣る漁師は少なく、いちばん多いのはクエ漁と同時に、カゴ漁で釣り上げるというスタイル。須崎でもシーズンである冬場を迎えると、うつぼ漁を本格的にスタートすることが多いという。

時短で強力な“ぬめり”を撃退
秘密兵器は「洗濯機」だった!

うつぼをさばく。ちなみに“急がなければ”冷凍しておけば、ぬめりはとれる

「じゃあ、はじめますか」。細川さんが、うつぼの頭に大きな釘を打ち込んで、まな板に固定した。

「まず厄介なのが皮の性質。ぬめりが凄くて扱いづらいんです」と細川さん。時間があるときは、塩をふってたわしで洗うのだが、なにせ、うつぼをさばくのには、時間がかかる。急ぐときには洗っている時間がもったいない。そこで、細川さんは、とっておきの時短テクを思いついた。「秘密兵器を使います」。秘密兵器は店の前に置かれていた。

「洗濯機」である。

 もちろん、「うつぼ専用機」ではない。ごく、ふつうの家庭用洗濯機に「うつぼを入れてスイッチオン」。すすぎ10分、もちろん、仕上げは脱水。「そんなことくらいで、崩れるヤワな魚じゃありません」(細川さん)。「1度に20匹のぬめりがとれて便利だね」。