「最近はなぜか『さ、し、す、せ、そ』を、シャープに発音できない人が増えています。いずれにしても完璧な発音を身につけるには3カ月ではとても足りません」

発音の仕方と同時に「促音、長音、鼻濁音」や「頭高型、中高型、尾高型、平板型」(アクセントの種類)など、日本語の音韻についての専門用語も学びます。

研修では「『4月』は頭高ではなく、尾高で読んでください」といったやりとりをするので、アナウンス技術を伝えるために共通言語を持つ必要があるからです。その他、テキストには早口言葉のような滑舌を鍛える練習文なども載っています。

誤りはすぐに指摘せず「自分で気づかせる」

自分で気づく「耳を養う」発声、発音の基礎を一通り学んだ後は、冒頭の笹川さんのように原稿を読んでは、録音した自分の声を聞き、修正する作業を繰り返します。

この時、清水さんは、発音で気になるところがあっても、すぐに指摘せず、録音を聞かせて、自分自身で気づけるよう指導します。本人が気づかない場合も「この2行に1ヵ所あったけど、どこだと思う?」とヒントを伝え、辛抱強く待つのです。

 「すぐに答えを教えるのは簡単です。でもそれでは、自分で気づくことができなくなってしまいます。このやり方は少々じれったいのですが、繰り返すうち、聞き分ける精度が上がってきます」

こうした「自分で気づかせる」指導方法はICレコーダを導入した数年前から特に重点的に行っています。その理由について、清水さんは「読み方をどれだけ指導しても、3カ月の研修で身につけられるスキルはたかが知れています。

し かし、現場に出たら我々の手を離れてしまい、丁寧に指導することはできません。結局、番組についた後は、発声、発音、アクセントなどを自分で直し、自分で 上手くなっていかなくてはならないのです。そこで、研修期間は自分の声を客観的に聞く『耳を養う』ための訓練を丁寧に行っています」と話します。