かつては「煙草店の数ほどあった」テーラー。それだけに日本のハンドメイドスーツの技術は奥深く、コンピュータでは表現できない絶妙な曲線、フィット感を描き出すことができるのだそう。しかし、あらゆる業界が直面している「高齢化ショック」が、今やこの世界をも飲み込もうとしています。貴重な技術は永遠に失われてしまうのか?!そこで、銀座テーラーの経営者はある決断をくだします。彼女が開いたのは、なんと“学校”だったのです――。

〔写真/真嶋和隆〕

職人が教える「スーツづくりの学校」

専務取締役の鰐渕祥子さん。「伝統技術の継承はもちろんですが、幅広い年代層のお客様に対応するためにも若手職人の育成は急務でした」

 専務取締役の鰐渕祥子さん。「伝統技術の継承はもちろんですが、幅広い年代層のお客様に対応するためにも若手職人の育成は急務でした」

 そもそも日本の服飾専門学校でメンズスーツのつくり方を教えているところはほとんどなく、「むしろ『服づくりの基本であるテーラーメイドの技術を学びたい。ぜひ教えてほしい』という人が多かったのです」(鰐渕専務取締役)。

「次世代の職人を育てなければ、もはや伝統の技術は守れない」と危機感を強め、職人の育成と技の伝承の必要性を強く感じた鰐渕代表取締役社長は、2006 年に日本で唯一、プロの職人が講師となってスーツづくりの技術を伝える日本テーラー技術学院を設立します。

 伝統の技術を一般に公開し、学びたい人に積極的に門戸を開く姿勢が世に受け入れられたのでしょうか。3年ほど前、20代の職人が3名入社しました。

 一時は敬遠されていた職人の仕事ですが、今の若い人には、既製服にはないテーラーの職人技が、魅力的なものとして映っているようです。