入社4年目の縫製士、鈴木雅晴さんは、入社した動機について、「大学では経営学を学んだのですが、洋服が好きだったので、大学卒業後、服飾系の専門学校へ。その後、スーツの縫製工場に入りました。

 そこに元テーラーという方がいて、テーラーならではのアイロンワークなどを教えてくれました。そのうち、既製服の流れ作業にはない職人の技の奥深さを感じるようになったのです」と話します。

若手職人を3年でスピード育成

 こうして20代の若手職人たちが加わった職場にいたのは、新人を教えた経験のない60 ~70代のベテラン職人ばかり。

「若手の3名はすでに20代半ばで、一日も早く一人前になって仕事がしたい。会社としても、少しでも早く仕事を覚えてほしい。下働きをしながら技を盗め、という旧来のやり方で、10年かけて育成していては間に合いません。ベテラン職人たちに昔とは違う方法で若手を育ててほしいとお願いしました」(鰐渕専務取締役)

 現在は、入ったばかりの若手にすぐ針使いの練習をさせ、できるようになったら、ベテランの職人をつけ、すぐにズボン、チョッキ、上着、タキシード、モーニング─と実際の洋服作りを教えていきます。「先輩が手取り足取り、マンツーマンで丁寧に教えてくれるなんて、下積み10年の我々からしたら、贅沢なこと」と中山さんは羨みます。

 といっても、職人たちには、どちらかというと口下手な人が多く、育てた経験もなかったため、最初は教え方がわからず、戸惑いがあったそうです。