北京では今月5日から全国人民代表大会(全人代)が開催されている。3年目を迎え政権基盤を強固としたい習近平政権は、安定成長維持と、腐敗摘発運動をさらに推進していくとみられる。その改革路線の影響からか、香港の大富豪・李嘉誠氏が今年に入り、事業の登記地を香港からケイマン諸島に移したことが話題となった。果たして、李氏に「撤退」を決断させたのは何か?

習政権の改革路線が李氏の事業に影響を与えたのか
Photo:新華社/Aflo

 2015年が明けて間もない1月9日、香港の大富豪李嘉誠氏は長江実業と和記黄埔の再編を行い、会社登記地である香港を離れ、登記地をケイマン諸島に移した。

「李超人」の異名を持つ86歳の大富豪は、なぜこのようなこのようなことを行ったのだろうか。

 中国メディアによると、李嘉誠氏は「非凡な経営頭脳をもち、業界の変化を見極めることができ、判断を間違えたことがない」、という。ならば、「撤退」を決断した背景には、深い理由があるはずだ。もちろん、李氏がその理由を自らの口から直接語ることはないし、進行中の行動への影響を避けるために恐らく真実を覆い隠すだろう。

中国メディアは、李氏の「撤退」について、主に「ビジネス上の理由」としている。確かにそれは一要因ではあるが、政治的要素、つまり習近平政権の政策という要因も見逃せない。

李嘉誠氏が撤退を決断した
真の理由とは

 李氏は李ファミリーのもとにある長江実業、和記黄埔の二大グループを和記実業有限公司(以下「長和」と略)と長江実業地産(不動産)有限公司(以下「長地」と略)に再編成しようとしていた。不動産、ホテル、インフラ建設、エネルギー、小売といった先行きがあまりよくない業種を「長地」に移し、港湾関係、電信、Eコマース、メディアや生命科学技術など、他の事業を「長和」に編入した。中国メディアは、この再編を「世紀の大再編」と呼んでおり、その理由は不動産市場の先行きにあると分析している。

 李ファミリーは不動産でかなりの利益を得ていたが、ここ2年で状況が変わり、先行きが不透明になった。中央財経大学の郭田勇教授は『人民網』に対し「昨年から現在まで、中国の不動産業は調整の周期に入っている」と語っている。

 李嘉誠氏は以前から中国大陸部と香港の不動産市場の先行きを楽観視しておらず、2013年以降、中国本土にある自らの不動産を売り続けてきた。李氏の不動産市場からの撤退は、不動産業を含む多くの人に批判されたが、現在の状況をみると、李氏の考えは正しかったといえる。