仏・豪・日…など一部国で
ミリアド社が攻めあぐねた理由

 ただし、いくつかの国では同じように展開できないこともありました。

 たとえば、フランスでの戦略は異なりました。同国では、国外に血液のサンプルを送ることが違法とされていたからです。 ミリアド社は、地元の研究室が全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)を行うことも厭いませんでしたが、フランスでは提携相手を確保できず実現しませんでした。

 オーストラリアでは、Genetic Technologies, Inc.(GTG)がミリアド社に対して、特許の侵害を訴えました。結果、ミリアド社はGTGの全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)のライセンス取得を余儀なくされました。

 日本においても、ミリアド社の典型的な市場攻略法は通用しませんでした。なぜなら規制当局がミリアド社に対して、BRCAテストが日本人にとって有効であることを実証する臨床試験を要求したからです。 これを補うために当初は、ファルコバイオシステムズに対して、全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)とBRCA遺伝子の変異の認められる領域のみの解析の両方を行うことを許可し、日本での臨床的有用性を確認しました。臨床的有用性が確認された後に、ミリアド社は再度方針を変更し、ミリアド社が全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)を行い、ファルコバイオシステムズにはBRCA遺伝子の変異の認められる領域の解析のみを認めることとしました。

 繰り返しになりますが、ミリアド社の海外市場におけるビジネスモデルは、一部の例外はあるものの、全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)はすべてユタ州にある研究所で行い、連携相手にはBRCA遺伝子の変異の認められる領域のみの解析ライセンスしか与えないというものでした。

 しかし、ミリアド社にとって誤算だったのは、それぞれの国で医療制度が異なっていた点でしょう。それを無視した強引な手法は、米国外での成功を阻みました。科学者や臨床医、患者団体、および政策担当者などの衝突は米国内にとどまらず、国外でも始まったからです。また、それを契機として、各国で遺伝子の特許をどこまで認めるべきか、改めて議論が巻き起こっています。