前回ご紹介したとおり、ミリアド裁判を経て現在、米国では自然に存在する遺伝子は特許対象とはなりません。一方、日本やカナダ、欧州、オーストラリア等では、自然に存在する遺伝子の特許が認められていますが、米国と同じように特許を無効にすべきだと方針を変えつつある国もでてきました。なぜでしょうか? 今回は引き続き、ミリアド裁判の判決が、どのように日本を含む諸外国に波紋を広げたのかみていきます。

 まず、ミリアド社の海外進出の状況について、マギル大学法学部のリチャード・ゴールド博士とデューク大学法科大学院のジュリア・カーボン博士の報告を参照して紹介していきます。

http://www.ncbi.nlm.nih.gov/pmc/articles/PMC3037261/

まさに“おいしいとこ取り”といえる
ミリアド社のビジネスモデル

 ミリアド社の目標は、新しい遺伝子の発見から、遺伝子検査と治療への応用まで担う、バイオ医療品会社になることです。

 米国では、診断用の製品やサービスは医薬品などと比べて、比較的速やかに市場に出すことができます。両博士の論文中の分析ではミリアド社のビジネスモデルの狙いは、遺伝子検査ビジネスによる収益を、今後の創薬や臨床試験に向けた資金調達に充てるものだとしています。

 米国内におけるミリアド社の遺伝子検査は、医師を介して、インフォームドコンセントによる患者さんの意思を確認して提供されています。患者さんからの検査の同意を受けた後、サンプルは直接ミリアド社に送られ、「全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)」とミリアド社が呼ぶ、BRCA1遺伝子とBRCA2遺伝子の塩基配列の解析が行われます。

 ミリアド社は、この検査を受けた患者さんでBRCA遺伝子の変異が認められた場合、患者さん1人につき親族10人が同じ検査を受けたいと希望するだろうと予想しました。この計算に基づいて、変異の認められた患者さんの親族がBRCA遺伝子の解析を希望する場合、全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)の費用の約10分の1で、患者さんに認められた変異の部分だけの遺伝子検査サービスの提供を開始しました。ミリアド社は、この検査を実施するにあたり、提携相手の研究所に限って権利を与えています。

 ミリアド社は、そのように米国で展開したビジネスモデルを世界各地の市場に拡大していきました。典型例は次のようなスタイルです。まず様々な国・地域で、BRCA遺伝子関連の特許を獲得します。そして、検査用のサンプルを集めるために、提携相手となる企業や研究所をその国・地域で一か所に限って設定します。その市場では、ミリアド社と提携相手のみがBRCA遺伝子検査を独占することができます。

 といっても、世界各地の提携相手との契約でも、ほとんどの特許権はミリアド社にあります。米国のビジネスモデルと同様に、連携相手にはBRCA遺伝子の特定の部位だけの解析を安価で容認するにとどまり、BRCA遺伝子の全塩基配列直接解析法(フルシークエンス・アナリシス)は、米国ユタ州にあるミリアド社で行うのです。