いま、世界で最も読まれている思考法「0ベース思考」とは、いったいどんな考え方か?
ノーベル賞の先行指標と言われるジョン・ベイツ・クラーク賞を受賞したシカゴ大学の「鬼才」経済学教授スティーブン・レヴィットと敏腕ジャーナリストのスティーヴン・ダブナーによる書籍『0ベース思考』は、全米で超異例の初版50万部で刊行され、シリーズ750万部を超えるなど欧米を中心に爆発的な話題となり、いまや日本でもベストセラーリストを賑わせている。
本連載では、同書から冒頭部分を全3回で紹介する。最終回の今回は、著者らがイギリスの次期首相に、公共政策について経済学的な「正論」の政策提言をぶつけた際のエピソードを暴露した話である。

本当のことを言うと「変人扱い」される

 もちろん、フリークみたいに考えたい人ばかりじゃないだろう。デメリットもいろいろ考えられる。主流から遠く遠く外れるかもしれない。気まずいことを言ってしまうかもしれない。気さくで感じのいい3人の子もちの夫婦に、「チャイルドシートは時間とお金の無駄ですよね」と口走ってしまう(少なくとも衝突試験のデータはそう示している)。

 新しい彼女の実家の夕食会に招かれて、「地産地消運動はかえって環境に悪いんですよ」と一席ぶってから、彼女のお父さんが筋金入りの地産地消主義者で、食卓の何もかもが半径80キロ圏内で生産されたものだと知る。

 変人扱いされたり、人でなしと呼ばれたり、席を蹴って部屋を出て行かれることにも慣れなくちゃいけない。これはぼくたち自身、じかに経験していることだ。

『超ヤバい経済学』を出してすぐプロモーションでイギリスを訪れたとき、その後まもなくイギリス首相になったデイビッド・キャメロンに呼ばれて会いに行った。

 彼のような立場の人にとって、ぼくたちみたいな人間にアイデアを求めるのは珍しくないんだろうが、当のぼくたちはお招きを受けてびっくりした。だって『超ヤバい経済学』では、政治家が躍起になって操作しようとする、インフレやら失業やらのマクロ経済要因のことはほとんど語れないと、しょっぱなからぶちかましていたんだから。

 それだけじゃない。ややこしい問題には立ち入らないのが政治家の鉄則だというのに、『超ヤバい経済学』はイギリスで早くも物議を醸しまくっていた。

 全国放送のテレビに出演したときなんか、ぼくたちがテロ容疑者をつきとめるためにイギリスの銀行と一緒につくったアルゴリズムを説明した章のことで非難が殺到した。テロリストが検知をすり抜けるのを手助けするような情報をうっかり公開するなんて、いったいどういうわけなんだと、インタビュアーにぎゅうぎゅう問い詰められた(当時は質問に答えられなかったが、この本の第7章にその答えがある。ヒント:うっかり公開してなんかいない)。

 それに、一般的な地球温暖化対策には意味がないと書いたことでもひんしゅくを買っていた。実際、ぼくたちを迎えに来てくれたロアン・シルヴァという、キャメロンの腹心のキレ者の政策顧問は、近所の書店には『超ヤバい経済学』を置いていないと教えてくれた。地球温暖化の章が書店の主人のお気に召さなかったらしい。