「楽しさ」と「充実」を追求する

 独立するか転職するかという悩みは、意識の高いビジネスパーソンであれば、一度は経験したことがあるだろう。給料を取るかやりがいを取るか、という悩みも多いと思う。でも、僕らが理想とする働き方は、その両方を実現することだ。少なくとも今の僕らは、やりたいことをやって、ちゃんとビジネスにして、自由で、充実している。

 課題はもちろんたくさんあるし、決して「満足」はしていない。これからチャレンジしたいことは山ほどある。だけれど、一つの幸せな仕事との向き合い方ができていると思っている。良いとこ取りの働き方が実現できていると思うのだ。

 それはどういうことなのか。一つは先に述べたフリーエージェント・スタイルという働き方である。信頼とビジョンのもとに集まった仲間たちのチーム。自由と責任とフェアネスの中で、テーマを追求する組織のかたちとワークスタイルだ。

 そしてもう一つが、幸せを最適化するスタンスと、価値観。僕らにとっての前ページで述べた4つのコトだ。

 人はそれぞれ違うから、かつてのような組織の論理の押しつけではもう幸せではないし、個人の充実も達成しにくい。ひたすら自分の市場価値を高めてポジションを上げることも大事だが、それだけでは本当の充実は生まれない。

 コトには優先順位やバランスがある。ビジョンも仲間もお金も安心もやりがいもステータスも、どれも大事なはずだ。そのことを前提にして、周りに惑わされず、それぞれの個人にとって、そして事業やプロジェクトにとって、最適なやり方を見つけていくということだ。

 もちろん、そうしていく上では多くの壁が待ち受けている。人が集まれば、評価や公平性における問題も生まれるし、楽しく働くためには退屈になりがちな会議をどう変えていくか、毎日通うオフィスをいかにスリリングなものにするかといった課題もある。それらすべてを、僕らは自分たちの理想の働き方に近づけるようにデザインしているのだ。

 フリーエージェント・スタイルは、普通のサラリーマンからすれば、一見現実的ではないかもしれない。確かに日本の企業風土の中でフリーエージェント契約を結ぶというのは、個人の負担が極端に増え厳しいことは事実だ。東京R不動産でも、こうした働き方をいかにより良い形にしていくか、常に模索している。まだ試行錯誤しているところはあるが、さまざまな仕掛けによって確実に成果を生み出している。(第2回に続く)


著者紹介

■馬場正尊(ばば・まさたか)写真左
Open A代表/東北芸術工科大学准教授/「東京R不動産」ディレクター
1968年佐賀県生まれ。早稲田大学大学院建築学科修了。博報堂に4年間勤務後、早稲田大学博士課程に復学、この時期に雑誌『A』の編集長を経験。2003年に設計事務所Open Aを設立、ほぼ同時に「東京R不動産」を吉里、林らと始める。著書に、『「新しい郊外」の家』(太田出版)、『都市をリノベーション』(NTT出版)など。
■林 厚見(はやし・あつみ)写真真ん中
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター
1971年東京生まれ。東京大学工学部建築学科卒業。マッキンゼー・アンド・カンパニーにて経営戦略コンサルティングに従事した後、コロンビア大学建築大学院不動産開発科修了。不動産ディベロッパーを経て、2004年に吉里裕也と株式会社スピークを設立、現在共同代表。
■吉里裕也(よしざと・ひろや)写真右
株式会社スピーク共同代表/「東京R不動産」ディレクター
1972年京都生まれ。東京都立大学工学研究科建築学専攻修了。バックパッカーとして世界を旅した後、株式会社スペースデザイン入社。リクルート創業者の江副浩正氏の元でディベロップメント事業に従事しビジネスを学ぶ。2003年に独立し「東京R不動産」を馬場とともに立ち上げ、2004年に株式会社スピークを林と共同設立。