論文の著者であるワシントン大学産婦人科ヒラリー•ガミル教授は、研究所のニュースに次のように語っています。

「新型出生前診断における疑陽性が大きな問題になっています。企業は、検査の精度が非常に高いと宣伝していますので、確定診断で正常とわかっても、妊婦は、陽性の判定結果を妊娠期間中忘れられません。本当は正常でも、容易にそれを信じられなくなるのです」

新型出生前診断は、疾患や障害の確定診断ではなく、それらの可能性を有する候補者を洗い出す“スクリーニング”が目的ですが、販売者側はその点を明確に説明していません。その代わりに、最も印象的な響きのある統計データを使って売り込んでいます。新しい検査が急速に市場で広がり、その変化には専門家である医師やカウンセラーでもついていくのが大変なのが現状です。ほとんどの患者さんは、それらの統計の意味や、スクリーニングと確定検査の違いを理解できていないでしょう。

 患者さんは次のように言うでしょう。「私は、実績があると聞いて、この検査を選びました。そして結果が陽性でしたが、この情報に対してどのように対応すればいいのかわかりません」。患者さんのストレスは計り知れません。

 ガミル教授は、スクリーニングの結果だけで中絶した女性はおらず、同僚からもそのような話は聞いていません。専門家は、スクリーニングで陽性の判定があった場合、つねに確定検査を推奨します。ところが、ニューイングランド調査報道センターによると、スタンフォード大学で3人の女性がスクリーニングの陽性結果を知り、健康な妊娠だったにもかかわらず中絶しました。

ダウン症以外の染色体異常に関する
有効性は不確かなのが現状

 昨今のスクリーニングが、以前よりはるかに正確になったのは事実です。しかし、マーケティングを重視する余り、その精度を誇大に伝えている面もあります。検査を実施する会社のウェブサイトでは、「診断」と書いていないまでも結果の正確さを主張しています。

 例えば、Progenity研究所の新型出生前検査である「verifi」のウェブサイトでは、検査の検出感度は99%近い、あるいはそれ以上だと宣伝していますが、この数字は実のところ、陽性と判断された場合に正確な染色体異常がある確率を意味するわけではありません。さらに、染色体異常のリスクが少ない35歳未満の女性において、特にこの統計は明確な結果を示していません。2つの研究では、陽性的中率は40〜75%と非常に幅広い確率を示しているのです。

https://www.fredhutch.org/en/news/center-news/2015/04/false-positives-prenatal-screenings-reason.html

■報告3:テキサス州ベイラー大学のサウ•チェン教授らの研究

 本研究では、新型出生前診断で陽性の判定をうけ、確定検査に呼ばれている対象者を評価しました。ほとんどの陽性の判定は、米アリオサ社(Ariosa Diagnostics)、中国BGI社、米ナテラ社(Natera)、米シーケノム社(Sequenom)、米イルミナ社(Illumina)からの報告です。教授らが294例の陽性判定の結果を検討した結果、238例(81%)は真の陽性であり、残りの56例(約19%)は疑陽性であることが判明しました。疑陽性の詳細は、21トリソミー9%(16人:疑陽性/177人:新型出生前診断で陽性の判定)、 18トリソミー23%(12人/52人)、13トリソミー46%(12人/26人)、モノソミーX62%(13人/21人)、XXXとXXY12%(2人/17人)、XYY100%(1人/1人)です。

http://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMc1412222