クリミア、イスラム国……
撤退するアメリカが生んだ世界的無秩序
現代も同じように、政治及び市民の自由が八年連続で縮小していると、アメリカのNGOフリーダムハウスは報告している。
「自由はクーデターや内戦によって損なわれているが、……同様に重要な現象は、いわゆる現代版権威主義の実践者たちが、些細だが究極的には効果的なテクニックを駆使していることだ。この手の指導者たちは、反対派を潰すのではなく機能しないように陥れ、規律や正当性や豊かさをうわべだけ維持して、法の支配を愚弄することに全力を注いでいる」。
これはロシアのウラジーミル・プーチン大統領、イランのハッサン・ロウハニ大統領、中国の習近平国家主席、トルコのレジェップ・タイップ・エルドアン大統領、ベネズエラのニコラス・マドゥロ大統領、エクアドルのラファエル・コレア大統領、そしてハンガリーのビクトル・オルバン首相に当てはまる。
プーチンは二〇〇五年に、ソ連崩壊は二〇世紀で「最大の地政学的悲劇」だったと語った。
プーチンの外交政策は、旧ソ連全体とはいわずとも、少なくとも昔の影響圏を再建するために一貫したアプローチを取ってきた。たとえば北京夏季五輪の真っ最中にグルジアに侵攻し、ソチ冬季五輪の直後にウクライナ領クリミア半島を制圧した。
ウクライナ東部では選挙結果を改ざんして偽情報を流し、覆面ロシア兵を派遣して親ロ派の分離独立運動を支援し、特殊部隊を展開した。キルギスタン政府には賄賂を渡し、旧ソ連諸国には真冬にパイプラインをストップし、ロンドンでロシア人ジャーナリストを殺し、エストニアにサイバー攻撃を仕掛けた。
その一方でプーチンは、ソ連時代の真髄ともいえるものを多数復活させた。形だけの民主主義、プロパガンダ化したマスコミ、政敵の見せしめ裁判、犯罪目的での国家権力の乱用、そして旧エリート層ノーメンクラツーラの復活だ。
イランも状況は同じだ。アメリカがイラクとアフガニスタンからの撤退を進めるなか、イランはイラクとアフガニスタン西部を影響圏に入れる意欲をあからさまにしてきた。さらにイランは、子分的な存在であるシリア政府のために戦う意志も隠そうとしない。
レバノンのイスラム原理主義組織ヒズボラや、パレスチナ自治区ガザを実効支配するハマスにも堂々と武器を供給してきたし、シーア派が多数を占めるバーレーンに対してイランの歴史的領有権を主張し始めた。こうした行動の一部は、伝統的なペルシャ・ナショナリズムに由来するが、より大きな影響を与えているのはイスラム復興運動だ。