勤務中の万一の災害時、従業員の命は、企業にどこまで責任を持って守ってもらえるのか――。2011年の東日本大震災で宮城県女川町の七十七銀行女川支店の従業員が、指示された避難先の屋上から大津波に流され、12人が死亡・行方不明となったのは「銀行が安全配慮義務を怠った」からだとして、3人の従業員の遺族が計2億3500万円の損害賠償を求めていた22日の控訴審判決。仙台高裁の中山顕裕裁判長は、1審の判決を支持し、遺族たちの控訴を棄却。原告は、最高裁に上告する方針を明らかにした。今年2月の結審後、和解協議は不調に終わっていた。(加藤順子、池上正樹)
企業に従業員を守る義務はない?
納得できない判決に遺族も怒り
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「津波がどんなに恐ろしいものなのか。どんなに危険なことなのかを考えれば、その場にとどまることなく、より安全な所に逃げる。高台に逃げるということは、津波避難の基本的な行動だと思っていた。納得できません。判決の理由も、理解できません。このままでは、息子も納得できませんよ」
判決後の会見で、行員だった息子の田村健太さん(当時25歳)を亡くした遺族の弘美さんは、そう唇をかんだ。
「津波が確実に来るとわかっていた七十七銀行女川支店において、屋上に避難するのか、近くの高台に避難するのかが、この裁判で問われていた。控訴審で、私たちは安全配慮義務について深く議論してきたが、判決ではすっぽり抜け落ちてしまった。いったい企業が負う安全配慮義務とはどういうものなのか。明確な判断がされていない」
企業防災の道しるべになるような判決を求めてきた原告弁護団は、安全配慮義務の前提にある「予見可能性の対象となるべき具体的事実が何なのか」を示さないまま、「津波の高さの予見が対象」と結論づけた判決を批判した。
また、佐藤靖祥弁護士は、学校で教諭がサッカーをさせて落雷に遭った事故を巡り、高裁では「遠くで雷鳴が聞こえていても、落ちるとは思わない」として請求を認めなかったものの、最高裁では「科学的知見によれば、安全配慮義務がある」と認定した判例を指摘。
「女川支店の屋上の高さである10メートルを超える津波があり得るのかどうか、文献を交えて主張してきた。判決では、他の地域で20メートルを超える津波は来ているが、女川には5.9メートルを超えるデータがなかったから、安全配慮義務違反とはいえないと認定している。でも、僕らが主張してきたのは、他で20メートルの津波が来ていれば、ここにだって来る可能性がある。津波とはそういうものであり、常にそのことを考えて行動すべきだということこそ、安全配慮義務だと設定してきたのです」