「目に青葉 山ほととぎす 初鰹」
新緑萌えはじめるいま、宮崎県では、宮崎市内を中心に「2015宮崎初かつおフェア」が開催中だ。5月10日までの期間中、鮮魚店、大型量販店、飲食店、ホテルなどが参加して、のぼりやポスターを掲げ、かつおやかつお料理を販売、提供し、旬の美味しさをアピールする。
「カツオは通年獲れますが、宮崎の近海で獲れた初カツオは、香りが高くさわやかな味わいで絶品です」と語るのは宮崎市・(株)宮崎魚市場副社長の下野和文さん。「宮崎初かつおフェア」実行委員会の会長でもある。
宮崎は「近海カツオ一本釣り漁獲量日本一」を誇る。しかも堂々の「21年連続」だ。カツオは鮮度が命。大型船で行われる巻き網漁で漁獲された場合はすぐに死んでしまい、鮮度が落ちやすくなる。さらに、遠洋で獲れたカツオは水揚げまでに時間がかかって鮮度が落ちる。一本釣り、近海で獲れたカツオは言わずもがな、バツグンの味わいだ。
そして、宮崎は漁のスタートも「日本一」早い。黒潮にのってやってきたカツオを全国に先駆けて、2月ごろから水揚げする。まさに品質の高い初カツオを堪能するなら、なんといっても「宮崎に行くしかない!」のである。
……といってもどれもこれもピンとこない人も多いかもしれない。「カツオといえば高知、のイメージが強いんだよね……」と下野さん。たしかに世間一般的にカツオといえば、瞬時に思い出すのは高知だろう。高知は、国内カツオ消費量が第1位だ。高知市内で「カツオのたたき」はたいていの店で見かけるし、限りなく町を挙げての「カツオ押し」。観光客もカツオのたたきを目指して高知を訪れる。
一方、宮崎ではカツオは日本一でも影が薄い。じつは当の宮崎県人ですら「宮崎=カツオ」に、まったくピンときていなかったのである。ちなみに、総務省の家計調査では、カツオの一世帯あたり年間消費金額が、1位高知市の9204円に対して8位の宮崎市ではわずか2316円。そのうえ日本一を知らない人すら多かった。
「そもそも宮崎では、あんまり、カツオを食べる習慣がないんですよ」
宮崎県人はどうやらあまり、カツオに興味がなかったらしい。
「好まれるのは、おもにアジや『シビ』とよばれるキハダマグロですね」(下野さん)
じつはわたしは以前から「無類のカツオ好き」の、“珍しい”宮崎市出身者だ。宮崎の初カツオを食べるのを楽しみに、毎年わざわざこの時期を選んで帰っている。かつて宮崎空港に、初カツオを食べられる店がほとんどなかったことに勝手に憤っていたくらいだ。
しかし宮崎でカツオがメジャーでなかったのには理由がある。「総漁獲量に対して、宮崎県に流通するカツオは少ないんです」(下野さん)。宮崎県内でさほど人気がないゆえに、もっと値がつく県外に出て行ってしまう。よって、県内では品質のよいカツオが少なくなり、ますます人気が上がらないうえに魚価も下がる、という完璧な負のスパイラルに陥っていたのだ。
「カツオの刺身はほんとに旨いですねえ。ヅケにしてもうまい。ほかのおかずなんて何にもいらないくらいだね。冷蔵庫にカツオが入っていればもう幸せ、って思いますけどねえ…」とつぶやく下野さん。
今でこそ、ようやく県民のカツオへの認識も高まり、初カツオを楽しみに訪れる観光客も増えた。今年の「宮崎初かつおフェア」は、2005年のスタート時の3倍という約300店舗が参加する。
しかし「カツオの聖地」であるはずの宮崎で、これまでカツオが存在感を発揮できなかったのはなぜなのだろうか。その理由を追い求めて、県内で最もカツオ漁の盛んな日南市へ向かった。