韓国における
親子関係の難しさ

いまなぜ韓国で『嫌われる勇気』が<br />30万部の大ヒットになっているのか?古賀史健(こが・ふみたけ)
ライター/編集者。1973年福岡生まれ。1998年出版社勤務を経てフリーに。現在、株式会社バトンズ代表。これまでに80冊以上の書籍で構成・ライティングを担当し、数多くのベストセラーを手掛ける。臨場感とリズム感あふれるインタビュー原稿にも定評があり、インタビュー集『16歳の教科書』シリーズは累計70万部を突破。20代の終わりに『アドラー心理学入門』(岸見一郎著)に大きな感銘を受け、10年越しで『嫌われる勇気』の企画を実現。単著に『20歳の自分に受けさせたい文章講義』がある。

──たしかに、お二人が登壇された講演会の質疑応答では、親子関係の質問が数多く出ましたね。

古賀 親子の対人関係というのは、アドラー心理学では「愛の課題(タスク)」とされます。関係の距離が近くて深いだけに、対人関係のなかでは一番難しく、だからこそ大事なタスクだとされています。その意味で、これだけ本書が受け入れられたということは、韓国は親子関係に苦しんでいる人が多い社会なのだろうなと思いますね。

岸見 日本でも親子関係は重要な問題です。とはいえ日本の若者の場合、たとえば親に結婚を反対されるとか就職に反対されるようなことがあっても、意外と自己主張ができるように思います。ある意味で親の期待を裏切ることがあっても、「まぁ大丈夫」といった理解をしている気がします。それに対し、韓国には「親の期待を裏切ることなど到底できない」とおっしゃる方が多く、非常に驚きでした。そうした思いを持っている人たちの存在が、これだけスピーディにベストセラーになった背景にあるのではないでしょうか。

いまなぜ韓国で『嫌われる勇気』が<br />30万部の大ヒットになっているのか?韓国最大の書店「教保文庫」が主催した講演会。会場は300人の熱心な聴衆で満席となった。

古賀 韓国の方たちに親との関係についてお話を伺っていると、親から一方的に支配や抑圧を受けているわけではないようです。もう少し根が深くて、「親の期待に応えたい」というのがベースにある。つまり、互いの善意と善意がぶつかり合っているような困難さを感じるわけです。誰も悪いことをしていない、だからこそ余計に難しい。本当に支配的で、暴力で言うことをきかせるような親であれば、関係を断ち切ることはある意味簡単でしょう。しかし良い親であり、自分も良い子どもでありたいという場合、善意が複雑に絡み合っているため、その紐をほどくのはなかなか難しいだろうと思います。