そのため、中堅・大手の事務所では、消費税10%の駆け込み需要が終わったら不動産が落ち込むだろうとか、東京であればオリンピックイヤーまではマンション投資が好調だろうとか、将来のイベントを見据えながら組織を強化・調整しているというのが実情ですね。
――そのような不安定な環境の中で経営を安定させるために、支援先にはどんなアドバイスをしていますか。
よくご提案するのは、紹介ルートを増やすことです。不動産登記の費用を支払うのはエンドユーザーですが、ほとんどのユーザーは自分で司法書士を決めるわけではありません。新築を建てるときは住宅会社に、住宅ローンを借り換えるときは銀行に決めてもらいます。このように司法書士の不動産登記は、住宅会社(ハウスメーカーや工務店)、不動産仲介会社、銀行の大きく3つの紹介ルートによって成り立っています。
ただし、複数の紹介ルートを開拓している事務所はごく少数で、通常は特定のルートに偏っています。例えば、銀行にはめっぽう強いけど、住宅会社や不動産会社はそれに比べて弱いといった具合です。これだと、どうしてもリスクが大きくなってしまう。例えば、銀行の支店から紹介を受けていた司法書士事務所が、突然仕事を失うケースも増えています。最近は地銀同士・信金同士が合併したり、銀行内で店舗の統廃合が進められたり、登記の事務処理が本部に集約されたりしていますから、そのあおりで支店からの紹介がなくなってしまうのです。
こうした事態に備えて、銀行に強い事務所は住宅会社も開拓するなど、安定的に紹介案件を獲得できるようにアドバイスしています。というのも、特に最近は銀行と住宅会社は登記案件数が天秤のような関係になることが多いからです。不動産がたくさん売れる時期というのは、住宅ローンの借り換えは意外と落ち着いてしまうので、銀行からの紹介が減ることが多いのです。一方、住宅会社からの紹介は増えますから、2つのルートを持つことでリスクを分散できるわけです。
――経営を安定させるという観点では、不動産登記の紹介ルートを増やすほかに、商品の品揃えを増やすことも必要でしょうか。
それなりのマーケットサイズがある商品であれば、有効だと思いますね。例えば「債務整理」はピーク時に比べると案件数が大きく減少したものの、個人向けの裾野が広い分野なので、今後もやり方しだいで一定の受任が見込めます。そして実は、不動産登記と債務整理も前述の天秤関係にあり、景気が落ち込むと不動産登記は減少しますが、債務整理は増えるわけです。