もっとも、司法書士の商品を考えるときに悩ましいのは、現状では有望な分野が少ないことです。不動産登記に次いで業務の柱となってきた「商業登記」は大幅に減少しており、なかでも「会社設立サポート業務」はウェブマーケティングに強い会計事務所に主導権を持っていかれています。また、第3の分野として期待されている「成年後見」やそれに付随する「財産管理」についても、将来性はあるものの、マーケットサイズが拡大するまでには時間がかかるでしょう。
むしろ、経営を安定させるために必要なのは、商品を安易に分散させることではなく、業績アップの芽を1つずつ育てていくことです。例えば、いくら銀行に強いと言っても、銀行からの紹介を増やす余地はあるものです。その部分を深掘りしながら、不動産会社などのルートをしっかり開拓していく。こうして不動産登記を伸ばしたら、次のステップとして商品軸を増やしたり、あるいは出店によって違う商圏を狙うというのが現実的だと思います。司法書士のマーケットは意外と大きいので、シェアを上げるだけでも業績は伸びていくものです。
――司法書士事務所が「選ばれ続ける事務所」になるために、どんな視点で差別化を図るべきでしょうか。
当社では、船井流経営法の「差別化の8要素」(立地、規模、ブランド、商品力、販促・営業力、接客力、価格力、固定客化)を紹介していますが、このうち司法書士事務所でとくに重要なのは「立地」「規模」「販促・営業力」の3つです。
1つ目の「立地」は、顧客(営業先)の近くに事務所を構えるということです。司法書士のメイン業務である不動産登記は顧客がすでに決まっているので、その顧客と付き合うために事務所をどう最適化するかが差別化のポイントになります。なかでも立地は、顧客との関係性や営業効率を大きく高める要素となるため、きわめて重要だと思います。
事務所の立地は、紹介ルートが銀行なのか、住宅会社なのか、不動産会社なのかで必然的に決まります。どの地域でも銀行が出店する場所は決まっていますし、ハウスメーカーが軒を連ねる場所も似ています。大手のハウスメーカーは住宅がたくさんできる時期に便利な場所に支店を構えますから、郊外にはほぼ例外なく「ハウスメーカー道路」と呼ばれるような場所があるからです。
そのほか、相続登記などの相続業務に力を入れる場合は、役所の近くや、大型ショッピングセンターの近くに事務所を構えることも有効です。顧客に合わせて立地を決めるということは、言い換えれば「どんなビジネスモデルで勝負するか」なので、それしだいで事務所経営の方向性は大きく変わってきます。司法書士事務所にとって、立地はそれくらい大事なのです。