社会保険労務士、税理士・公認会計士、司法書士、弁護士などの「士業」は、資格者増や競争激化などにより業界内の二極化が進んでいる。厳しい経営環境の中で「選ばれ続ける事務所」になるためには何が必要なのか。士業の経営指導で抜群の成功率を誇る船井総合研究所の士業コンサルタントが、業界の現状と差別化のポイントを語る。連載の第1回は、社労士専門の経営コンサルタントとして多くの実績を持つ村上勝彦氏に話を聞いた。
社労士の業界環境と
これから伸びる分野とは?
――社会保険労務士のここ数年のトレンドを踏まえた現状を教えてください。
社労士を取り巻く経営環境は厳しくなっています。社労士事務所のメイン顧客は法人ですが、法人数は減っているのに、資格者数は毎年少しずつ増えているからです。この10年間でみると、全国の社労士数は2万9075人(2005年3月末)から3万9331人(15年3月末)へと約35%も増えています。一言で言えば、供給過多の状態です。
ただし、マーケットとしては広がりを見せています。社労士のメインの仕事は、労働関連法令に基づく書類の作成代行や帳簿書類の作成事務など、いわゆる1号、2号業務です。最近は、これに加えて、3号業務にあたる各種人事労務コンサルティングが増えているのです。具体的な内容としては、ニュースでもよく取り上げられる「未払い残業問題」「新型うつ」「パワハラ・セクハラ」などが挙げられます。
なかでもニーズが高いのは、「未払い残業問題」です。昨今、ブラック企業に代表されるように、劣悪な労務環境の企業は世間のバッシングを受けています。経営者の意識も高まりつつあり、相談の着地点としては「就業規則を見直して、ルールを明確にしたい」という結論に至ることが多く、仕事に直結しやすいのです。
一方、「新型うつ」や「パワハラ・セクハラ」もニーズはありますが、医師やカウンセラーが介入しなければ解決できない案件があり、社労士との仕事の線引きが難しい側面があります。業種の垣根を越えた協業体制はまだ確立されておらず、これからの業務になると言えますね。特にうつに関しては、国の施策としてこの12月から従業員50人以上の企業に対して「ストレスチェック」が義務化されますから、今後の伸びしろは大きいと思います。