イラスト/びごーじょうじ

 お年寄り──という言葉からイメージする年齢はいくつだろうか。1941年に発表された『船頭さん』という童謡がある。

「村の渡しの船頭さんは今年60のおじいさん、年は取ってもお船を漕ぐ時は元気一杯……」 。

 船頭さんは60歳の老人になっても働いていて偉いね、という歌詞だが、今は60歳で働かないと怒られてしまう世の中である。

 こちらはよく知られている話だが、国民的漫画『サザエさん』の磯野波平は54歳。意外と若いのだが、年寄り扱いされた波平が怒る場面が多々ある。

 深沢七郎の姥捨てをモチーフにした傑作小説『楢山節考』で山に向かう老婆おりんは69歳である。69歳はお年寄りなのだろうか? 非常に微妙なところだが現代の感覚では少なくてもまだ働ける気がする。けれど、当時の感覚ではそこに違和感はなかったはずだ。

 いくつか例を挙げた。ここからわかることは日本人の年齢感覚が時代によって変わってきたことだ。かつて還暦というのは立派な祝い事だった。ところが今は人生の通過点の一つでしかない。

 象徴的な出来事があったのは92年のことである。ある企業のテレビCMに起用された100歳の双子が一躍スターになった。「きんさん、ぎんさん」こと成田きんと蟹江ぎんである。