北海道に移り住み
ワインで地域活性を目指す落氏

 カーブドッチワイナリー訪問客の8割強がリピーター客である――という現実は、まぎれもなくこれらの強いこだわりが支えているのです。

 カーブドッチは戦後の高度経済成長に乗って日本が邁進してきた「大量生産・大量消費」とはまったく逆の「少量生産・少量消費」を心がけながら運営がなされてきました。カーブドッチは農業法人でもあり、ワインやビールを醸造して販売し、レストランを運営する飲食業にもかかわっています。加えて、温泉付きの宿泊施設も開業しました。

 本書はそうした落氏とカーブドッチ、そして仕事仲間たちとの歩みを綴った記録ですが、落氏はその後、12年4月にカーブドッチ代表を辞任し、新天地を求めて北海道余市町に転居しました。そしてぶどう畑用の土地を取得し、醸造棟を建設。ワインづくりの集大成の一環として「OcciGabi(オチガビ)」という名のワイナリー・レストランをオープンしたのは、13年9月のことでした。「ぶどう畑のワイナリー・レストランOcciGabi」のウェブサイトをのぞいてみると、その間の経緯が以下のように記されています。

「新潟でのカーブドッチの事業は一応の完成をみましたので、これで一区切りととらえ、人生の残りの20年程のワイン作りを、どこですべきかと考えました。その答えは意外と簡単でした。ドイツより帰国して30年の間に、私の持ち帰った品種が一番栄えているところ、それが余市町でした。(中略)私共のワイナリー運動が単なる企業活動に終わるとは思えません。日本一のワイン用ぶどう地帯、余市において、覇を競いながら美しいワイナリー作りにいそしむ。町をあげての大きなうねりが今始まりました。

代表取締役 佐沢雅美  専務取締役 落希一郎」

 オチガビの呼称は、株式会社occigabiの専務取締役である「落」と、同社代表取締役を務めるパートナーの「雅美」を組み合わせて命名しました。カーブドッチ同様に、「ワインの木・オーナー制度」を設けて出資を募り、会員になったオーナーには16年3月から完全自家醸造ワインの引き渡しが始まるそうです。

 ところで、地域資源を活用した新たな付加価値を生み出す事業を推進するべく、農林水産省が成立させた「6次産業化法」をご存じでしょうか。オチガビワイナリーはその6次産業化支援ファンドの認定を受け、国が同社に出資するかたちの支援を通じて地域振興に寄与していくことが可能になりました。かくして、“ワイン業界のマッサン”の脳裏には、米国カリフォルニアのナパ・バレーを模した一大ワイン醸造地構想が浮かんでいるようです。

 今後の地方の課題は、各村や町、市が、その空間だけで有意義な人生を送ることのできる社会を作り上げることだと思っています。地域の人々が、その地方の中小企業、スポーツ活動、農業、商業などに対して誇りが持てること、地域での生活に満足できることが重要です。

 その一歩として、環境の美化は誰でもが着手しやすい部分。集落作り、景観作りは、各企業、さらには住んでいる一人ひとりが意志さえ持てばものすごく変わると思います。自分の家の庭を、会社の敷地を、いま一度見直すことから地域作りははじまるはずです。(182ページ)

 落氏の人生を賭けた「本物のワインの里づくり」に向けて、新たなる、そして最後の挑戦が始まったのです。